今年も、入社や人事異動、転勤の季節がやってきた。新しい配属先では、期待や楽しみ以上に、不安や心配ごとがたくさんある。中でも不安なのは、長時間労働や過重労働、あるいは理不尽な上司のパワハラや「モンスタークレーマー」などに悩まされることではないだろうか。だが、いわゆる「ブラック職場」かどうかの見極めは、それほど簡単ではない。
パワハラやいじめ、サービス残業が常態化しているような職場は、議論の余地なくブラックと言えるが、たとえば同じ会社の中でも、所属する部署や人間関係によって、そこが「ブラック職場」にも「働き甲斐のある職場」になりうるケースもある。極論すれば、社員一人一人の受け止め方──どれほどストレスや負荷がかかっているか──によって、その基準も変わってくるだろう。
ストレス・マネジメント研究者の舟木彩乃氏は、その仕事が自分にとって「ブラック職場」かどうかを見分けるポイントがあると言う。これまでに、のべ8000人以上のクライアントをカウンセリングしてきた舟木氏によれば、そのカギとなるのは「首尾一貫感覚(SOC)」と呼ばれるストレス心理学の考え方だという。
◆カギは「首尾一貫感覚」
「首尾一貫感覚は、心理学や医療社会学の分野ではストレスに対処し健康に生きるための力になる考え方としてよく知られています。もともと戦争中の過酷な強制収容体験を生き抜いた人々を調査・研究する過程で見出された首尾一貫感覚は、『把握可能感』などの3つの感覚からなり、これらの感覚を高めていくことでストレスに克つ強いメンタルを手にすることができると考えられています。
逆に、これらの感覚が脅かされている状態は、過剰なストレスがかかっていると考えられます。それこそが『ブラック職場』を見極めるポイントだと思います」(舟木氏、以下同)
舟木氏の近著『「首尾一貫感覚」で心を強くする』によれば、首尾一貫感覚は大きく3つの感覚からなっている。
■把握可能感(=「だいたいわかった」という感覚)――自分の置かれている状況や今後の展開を把握できると感じること。
■処理可能感(=「なんとかなる」という感覚)――自分に降りかかるストレスや障害にも対処できると感じること。
■有意味感(=「どんなことにも意味がある」という感覚)――自分の人生や自身に起こることには意味があると感じること。
これらの感覚が高いと、ストレスに押しつぶされることなく、前向きの力に変えていくことができるという。
「裏を返せば、これら3つの感覚が十分得られない状態とはどのようなものかと考えていけば、ブラック職場の“正体”が見えてきます」