現実に似せた状況に身を置き、本物に近い感覚を知る“疑似体験”の場が増えている。「たとえ疑似でも現実に近い状況を体験した方が『案ずるより生むが易し』でパニックにならず、なってみないとわからないことへの共感が得られることもあります」とは精神科医の和田秀樹さん。
最近では、地震の避難や津波などの擬似体験をするスポットがある。モータースポーツの聖地の1つ、富士スピードウェイにあるのがトヨタ交通安全センター「モビリタ」もそんな擬似体験を提供している場のひとつだ。ここで飲酒運転疑似体験が始まったのが2006年10月。
これは同年8月の福岡での飲酒運転事故を受け、飲酒運転の怖さを知ってもらおうと企画したのがきっかけ。一般向け・企業向けの交通安全体験講習プログラムに組み込まれている。
「飲酒すると恐怖心がなくなってスピードを出しすぎ、通常の事故より死亡率が8倍に跳ね上がり、毎年約200人が亡くなります。飲酒運転するタイプに多いのが、遵法意識の低い人と、考えが甘く意志の弱い人。少量のアルコールでも脳に影響があり、飲酒状態で事故を起こせば仕事も家族も失う可能性があって取り返しがつかず、自分の人生も相手の家族の人生も狂わせます」と話すのは安全運転講習インストラクターの佐藤直人さんだ。
そんな飲酒運転を実際に飲酒しなくても体験できるのが、飲酒ゴーグルによる疑似体験。
一見、水中眼鏡のようだが、かけた瞬間目の前の視界がグワンと曲がり、白線の上に立っているつもりなのに、実際の立ち位置は大きく外れるほどの強烈なゆがみだ。
これをつけて障害物の間を歩行すると、千鳥足で足元はふらつき、よけているつもりなのに障害物を蹴飛ばしてしまい、「あれ、あれ」の連発。時速50kmからの寸止めブレーキング。普通なら簡単だが、飲酒ゴーグル装着だと距離感がわからずに障害物をはねた!
シフトレバーさえよく見えない視覚状態でトライしたのが時速50kmで走って障害物前で寸止めするブレーキングと、障害物を交互にクリアするスラローム走行だ。スラローム走行では左回りの際に車体感覚がずれ、障害物を轢いてしまった!
結果は失敗の連続。視覚が酩酊状態なだけでも車両感覚と距離感が鈍り、ブレーキが遅れて障害物をはね、左内輪差に障害物を巻き込んだ。これが人間なら死亡事故だ。
これで本当に飲酒し脳まで麻痺したら、「自分は罪悪感なく、人を巻き込んだ大事故を起こしかねない」と再認識させられたのも事実。自分と周囲に“飲んだら乗るな”を徹底させたいと痛切に感じた衝撃体験だった。
【トヨタ 交通安全センター「モビリタ」】
・トヨタ自動車が運営する安全運転講習会の専用施設として2005年にオープン。
・住所:静岡県駿東郡小山町中日向694 富士スピードウェイ内
・営業時間:9時30分~17時
・休み:土曜・日曜・祝日
・料金:総合トレーニング1万3650円(昼食込) 要予約
※女性セブン2019年4月18日号