高良健吾が出演する映画『多十郎殉愛記』が公開前から話題を呼んでいる。ふんどし、ラブシーンなど、見どころ満点の新作時代劇について、コラムニストで時代劇研究家のペリー荻野さんが解説する。
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先日、このコラムでは「日本ふんどし協会」が認定する昨年度の「ベストフンドシスト」の「期待の新人賞」に映画『麻雀放浪記2020』で、ふんどし姿で大暴れしている斎藤工が選ばれたことを書いた。そして、2019年度の「ベストフンドシスト」の有力候補は『いだてん』で「ひゃ~!!」奇声を発しつつ毎日、冷水浴を続ける主人公・金栗四三を演じる中村勘九郎ではないかとも書いた。
しかし、ここへきて、もうひとりの有力候補が現れた。12日に公開される映画『多十郎殉愛記』に主演した高良健吾である。
物語は、幕末の京都で自堕落な日々を送る剣豪の浪人・清川多十郎(高良)と彼を慕って面倒を見るワケありの女おとよ(多部未華子)の悲恋が軸となる。貧乏長屋で、ふんどしに背中に着物をひっかけただけの姿で、物憂げな表情の多十郎。ダメダメなのになんともいえない色男だ。『いだてん』の四三が体育会系なら、多十郎は美術系。ふんどしが真っ白じゃないところもこの映画のこだわりと見た。
かつて高良健吾は、映画『武士の献立』では料理侍、大河ドラマ『花燃ゆ』では幕末の熱血男・高杉晋作、CMではスマホも使うが移動は馬というキリンの「淡麗侍」など、さまざまな侍を演じてきたが、私が記憶する限り、ふんどし姿が印象的なのは、この多十郎だけ。よくチラリと見えるように撮ってあるんだ、これが。
すっかり「ふんどし」の話ばかりになってしまったが、映画の見どころはもちろん、そればっかりじゃない。監督・脚本は『極道の妻たち』などで知られる84歳の中島貞夫。レジェンド監督の約20年ぶりの新作であり、監督補佐には『私の男』で高く評価されている中島監督の教え子・熊切和嘉監督が参加していることでも注目されている。
やがて、長州藩脱藩の多十郎は、京都の治安維持を強化する見廻組に見つかり、大勢の捕り方に追われる身となる。後半、追手の隊長・寺島進との一騎打ちシーンや竹林を駆け回る30分もの逃走劇は、昭和の映画全盛期のチャンバラ映画を思わせるすさまじさだ。小難しい説明は一切なし。走って斬って、また走る。しかも、よく見ると、多十郎は名うての剣士なのに、そんなに人を斬ってない? なんで? 監督は、きっとこういうチャンバラがやりたかったんだとわかってくる。さらに、もうひとつ「瞬間的」ともいえる多十郎のラブシーンがあるのも重要だ。なななんと、そこですか。しかも、こんな短い!でも、熱い! 監督、コレもやりたかったんだ…。
ほんの少しなのに観た者に強烈な印象を残すラブシーン。派手な衣装も豪華なセットもないのにぐっとくる。ひょっとすると、めちゃくちゃコスパのいいラブシーンと言えるかも!? それなのにタイトルが「殉愛」となっているのも、気になるところ。美術系ふんどしと「殉愛」の行方を見届けたくなる。監督の作戦にうまうまと乗せられてしまうのが、この映画の正しい鑑賞法なのである。