父の急死で認知症の母(84才)を支える立場となった女性セブンのN記者(55才)が、介護の現実を紹介する。今回は「トイレ」に関する話だ。
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母の友人の老婦人たちの間でも、便秘の悩みは深刻のようだ。そんな中、幸いなことに母はいまだに“快便”。その秘訣は、朝のトイレタイムにじっくり取り組むこと。心地よく過ごせるように、トイレのインテリアにもこだわっている。
「出てないの…苦しいわ」
「まあ~大変。冷たい牛乳飲んでみた? 効くのよ」
「あらバナナじゃないの?」
つい先日、朝食が終わる時間を見計らって母の住むサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)の食堂を訪ねると、母と数人の老婦人たちが顔を寄せ合って話していた。
認知症をはじめ、みなさん何かしらの衰えがあるので、食堂での賑やかなおしゃべりも、若干話がすれ違いながら進行するのが常だが、この日は妙に焦点が合っていて女子会並みに白熱していた。
「あなたはどう?」
「えっ、私? あら、どうだったかな…。忘れちゃった」
端で聞き耳を立てる私が思わず吹き出しそうになった“認知症あるある”にも、誰も笑わず真剣な面持ちだ。
便秘は多くの女性にとって永遠の苦悩といってもいい。特に高齢になると深刻度は増すらしい。在宅で老親を介護する友人たちから聞く話では、うつ病か認知症を心配して受診したら重度の便秘だったとか、下剤で一気に出したら血圧が急降下して卒倒したとか、大ごとにもなるという。もはやトイレの中だけの秘めたるお悩みではすまないのだ。
◆老いてなお便秘に克つ! 母の秘策はトイレ籠城
一方、母の場合は今のところさほど深刻ではない。かといって快便体質というわけではなく、昔から“朝イチの冷たい牛乳”やお腹の“のノ字マッサージ”など、むしろ熱心に快便の策を巡らせていた。
きんぴらごぼうを作るたびに「うんちがよく出るからね」と言う口癖は、中年になった私もつい家族に言ってしまう。
でもいちばんの策はやはり、朝のトイレ籠城だろう。新聞や雑誌を持ち込んで、儀式のように1時間ほど籠城した。
ちなみに私も父も、母と違い“短期決戦”タイプだったが、「便通は健康のもと」と常々唱えていた母の影響か、母の“朝の儀式”にも最大限の協力をした。父などは得意の日曜大工でトイレに本棚やめがね置きを作り、絵画や花も飾ってじっくり眺める空間を演出。すき間風も通る古い団地のトイレだったが、座ると何とも居心地がよく、母のお気に入りの空間だった。
あれから半世紀。母はひとりになってサ高住に転居したのだが、居室内のトイレが驚くほど広い。車いす仕様のため、小さなワンルームには不釣り合いなほどスペースを取ってあるのだ。車いすを使わない母にはさらに広すぎるので、転居時、ふと団地のトイレを思い出して、本棚を置いてみた。
私が20代半ばで実家を出てから母の“朝の儀式”のことはすっかり忘れていたが、たまたま朝食後の母を訪ねて来て、朝刊を持っていそいそトイレに入る懐かしいシーンに遭遇した。しかも長い!
「私、用事があって来たんだよ。いつまで入ってるの?」
「1時間よ! 朝、じっくり出さないとね(笑い)」
母は認知症だが、こういう返答や笑いは昔とまったく変わらずホッとする。そして、母が出て来たトイレを覗くと、本棚の上に、たぶん道端で摘んだタンポポが。
「このトイレも結構、気に入っているんだな」と、またひと安心した。
※女性セブン2019年4月25日号