放射線治療とは、放射線が持つ“遺伝子(DNA)を傷つける力”を応用した治療法だ。がん細胞に放射線をあてることで、がん細胞の増殖を抑える効果がある。
放射線を照射した部分にしか効果が得られないという点では外科治療(手術)と同じだが、放射線治療は切らずに治療ができるので、がんができた部位の形や機能が損なわれることがない。
また、抗がん剤の効果が得られないがんに対しても有効な場合があると、日本動物高度医療センターの獣医師・菅井匡人さんは言う。
「放射線治療には、腫瘍の長期的な制御を目的とする“根治照射”と、症状の緩和を目的とする“緩和照射”があります。すべての腫瘍に治療効果があるとは限りませんが、猫の場合、特に鼻腔内リンパ腫の治療には向いています」(菅井さん・以下同)
鼻筋などが腫れ、鼻血が出るなどの症状が表れる鼻腔内リンパ腫は、他の部位に発生するリンパ腫に比べて放射線治療による効果が得られやすいという。
1回の治療(照射)時間は、麻酔の導入から覚醒までで15~20分程度。そのうち実際に放射線が照射されている時間は数分程度だという。
「動物用に作られた放射線治療装置はないため、人と同じ装置を動物用にカスタマイズして使用しています。根治照射では、少量の放射線量を複数回にわたって照射します。また最近では、がん周辺の正常な組織の被ばく量を抑えながら照射できる“定位放射線治療”という治療法も登場しています」
大がかりな設備が必要なため、費用は60万円からが目安となるが、治療費については、施設や照射回数によって異なるため、事前にしっかりと確認しよう。
また、根治照射の場合は、治療した部分の皮膚の毛が抜けたり、紅斑が出る、皮膚の表層が剥がれる、かゆみが出るなどの副作用が出ることはあるが、猫の放射線治療において副作用が生活の質に大きく影響することは稀だという。
副作用が発生する時期は、放射線治療中から治療後1か月程度の期間で、一時的に発現する“急性障害”と、進行性で治療後数か月以降に発現する“晩期障害”がある。
「副作用の症状は、個体差だけでなく、1回当たりの線量や治療期間中の総線量など、さまざまな要因に左右されます。放射線治療を受ける際は、どの範囲にどの程度の放射線を照射するか、獣医師から充分に説明を受け、起こり得る副作用について理解しておくことが重要です」
今の時代、ペットががんになっても、あきらめることはない。愛猫のために何ができるか、がんの進行具合や年齢を考慮しながら、無理のない治療計画を立てよう。
※女性セブン2019年4月25日号