音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、桂文我と桂梅團治、対照的な個性を持つ上方落語を東京で満喫できる二人会についてお届けする。
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3月14日、上方落語の桂文我と桂梅團治が22年前から東京で年に1回開いている二人会を観るために、国立演芸場に出掛けた。
文我は1979年3月に桂枝雀に入門、今年で芸歴40年。落語の歴史に造詣が深く『落語「通」入門』という著書もある研究家肌の演者で、持ちネタも豊富。この日は他の噺家があまり高座に掛けない『後家殺し』『田舎芝居』をネタ出ししていた。
1980年4月に三代目桂春團治に入門した梅團治は芸歴39年。「鉄道好きの落語家」として有名で鉄道落語も創作している。この日のネタ出しは『天災』と『はてなの茶碗』。
若手の林家染吉が『動物園』を演じた後、まず梅團治が『天災』を。江戸落語の演目だが、桂ざこばが演り始めて以来、上方でも広まっている。梅團治は心学を教わる短気な男の粗暴さを楽しく描いて大いに笑わせた。明るく骨太な梅團治の芸風に『天災』はよく似合う。
文我の1席目は『後家殺し』。上方の二代目桂三木助から教わった六代目三遊亭圓生が江戸落語として演じたが、今では東京でも上方でもほとんど演り手がいない。
素人浄瑠璃の上手さが縁で美人の後家といい仲になった男が、嫉妬した友人の「若い男と浮気してる」という嘘を真に受けて女を殺してしまい、死罪となる。奉行に「申し残したいことはないか」と訊かれた男が残された家族への想いを浄瑠璃の調子で語ると、奉行ハタと膝を叩いて「後家殺し!」(浄瑠璃への褒め言葉)でサゲ。圓生よりもずっとコンパクトな構成で聴きやすく、演じ方も軽快なので後味もいい。