ライフ

うな重の方が父が母のために入った3つのがん保険より大事か

保険よりうな重?(写真/アフロ)

 父の急死で認知症の母(84才)を支える立場となった女性セブンのN記者(55才)が、介護の日々を綴る。

 * * *
 父が亡くなった後にがく然としたのは、がん保険に3つも加入していたことだ。「無駄なことを」と怒った半面、父が母のために入った保険を無下にできず、結局1つを解約せずに残した。果たして正解だったのか、悩むところだ。

 今から10年ほど前は娘がまだ小学生で、私は仕事と家事とPTA活動などに追われていた。そして、両親が大病もせず穏やかに暮らしていることに感謝しつつ、実はふたりとも認知症だろうと薄々気づいていた。

 父は、しっかりしているように見えたが、待ち合わせで約束通りに会えないことが重なり、一日中行方不明になったことも一度ではなかった。

 同じころ母も、同じ話を繰り返すようになり、冷蔵庫には腐ったものがいっぱい。表情や言動も、昔とは明らかに違ってぼんやりしていた。それでも父が行方不明になれば、俄然、明瞭な口調で私に助けを求めてきた。

 父の方も、母がもともと苦手な金銭管理を一手に引き受け、詳細な家計簿をつけて買い物にも必ず同行し、レジでの支払いはすべて父が行っていた。

 大事故・事件が起きないことをいいことに、多忙な娘は「認知症でも補い、支え合っているのだ。いいことじゃないか」などと、無理やり楽観しようとしていたのだ。ところが2012年に父が急死。両親宅の状況を確認せざるを得なくなった。

 ふたを開けてみると、結局使えず仕舞いのインターネットのプロバイダー、開封すらしていない通販のサプリメントなど、よくわからず結んだと思われる契約が山ほど。極めつきはがん保険に3つも加入していたこと。気軽に入れる通販型保険だ。

 加入時期が違うので、その時々に急に心配になり、重複に気づかず入ったのだろう。

 いずれも両親ふたりで加入していたが、心筋梗塞で亡くなった父には結局役に立たなかった。保険とはそういうものだが、認知機能の衰えに抗いながら自分たちの行く末を案じ、娘にも相談せず加入した父が哀れだった。3枚の保険証書が本当に恨めしかった。

◆月額3000円の保険料がもったいないような気も

 3つのがん保険は、契約者死亡で解約するか、契約者を母に変更して母の分を継続するかの選択を迫られた。

 プロバイダーや通販などは「高齢につけ込んで…」と、苦々しい思いで即、解約したが、保険はさすがに迷った。

 母は「パパったらバカね、3つも」と相変わらず無頓着。でも悩んだ末、2つを解約、1つを継続することにした。保険料は月額3000円余り。当初は父の思いが詰まった“お守り”と思えたのだが、あれから早6年がたった。

 母は84才になり、認知症はあるが、がんは患ったことがない。もちろんリスクはあるが、これから発病したとして、高額な先進医療などを受けるだろうか。入院費用をある程度カバーする別の医療保険にも入っている。

 こう考えると、毎月母の口座から引かれる約3000円をがん保険に充てるべきなのか。母の好物のうな重が食べられる金額だ。天ざるそばなら私とふたりで楽しめる。落語や映画に使った方が有意義ではないか…と迷う。

 生きる残り時間がそう多くはない高齢親の時間とお金の使い方、働き盛りの子世代の立場で考えるのは実に難しい。

※女性セブン2019年5月2日号

関連記事

トピックス

氷川きよしが紅白に出場するのは24回目(産経新聞社)
「胸中の先生と常に一緒なのです」氷川きよしが初めて告白した“幼少期のいじめ体験”と“池田大作氏一周忌への思い”
女性セブン
公益通報されていた世耕弘成・前党参院幹事長(時事通信フォト)
【スクープ】世耕弘成氏、自らが理事長を務める近畿大学で公益通報されていた 教職員組合が「大学を自身の政治活動に利用、私物化している」と告発
週刊ポスト
阪神西宮駅前の演説もすさまじい人だかりだった(11月4日)
「立花さんのYouTubeでテレビのウソがわかった」「メディアは一切信用しない」兵庫県知事選、斎藤元彦氏の応援団に“1か月密着取材” 見えてきた勝利の背景
週刊ポスト
多くのドラマや映画で活躍する俳優の菅田将暉
菅田将暉の七光りやコネではない!「けんと」「新樹」弟2人が快進撃を見せる必然
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告(右)と父の修被告
「ハイターで指紋は消せる?」田村瑠奈被告(30)の父が公判で語った「漂白剤の使い道」【ススキノ首切断事件裁判】
週刊ポスト
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
「週刊ポスト」本日発売! 小沢一郎が吠えた「最後の政権交代を実現する」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 小沢一郎が吠えた「最後の政権交代を実現する」ほか
NEWSポストセブン