父の急死で認知症の母(84才)を支える立場となった女性セブンのN記者(55才)が、介護の日々を綴る。
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父が亡くなった後にがく然としたのは、がん保険に3つも加入していたことだ。「無駄なことを」と怒った半面、父が母のために入った保険を無下にできず、結局1つを解約せずに残した。果たして正解だったのか、悩むところだ。
今から10年ほど前は娘がまだ小学生で、私は仕事と家事とPTA活動などに追われていた。そして、両親が大病もせず穏やかに暮らしていることに感謝しつつ、実はふたりとも認知症だろうと薄々気づいていた。
父は、しっかりしているように見えたが、待ち合わせで約束通りに会えないことが重なり、一日中行方不明になったことも一度ではなかった。
同じころ母も、同じ話を繰り返すようになり、冷蔵庫には腐ったものがいっぱい。表情や言動も、昔とは明らかに違ってぼんやりしていた。それでも父が行方不明になれば、俄然、明瞭な口調で私に助けを求めてきた。
父の方も、母がもともと苦手な金銭管理を一手に引き受け、詳細な家計簿をつけて買い物にも必ず同行し、レジでの支払いはすべて父が行っていた。
大事故・事件が起きないことをいいことに、多忙な娘は「認知症でも補い、支え合っているのだ。いいことじゃないか」などと、無理やり楽観しようとしていたのだ。ところが2012年に父が急死。両親宅の状況を確認せざるを得なくなった。
ふたを開けてみると、結局使えず仕舞いのインターネットのプロバイダー、開封すらしていない通販のサプリメントなど、よくわからず結んだと思われる契約が山ほど。極めつきはがん保険に3つも加入していたこと。気軽に入れる通販型保険だ。
加入時期が違うので、その時々に急に心配になり、重複に気づかず入ったのだろう。
いずれも両親ふたりで加入していたが、心筋梗塞で亡くなった父には結局役に立たなかった。保険とはそういうものだが、認知機能の衰えに抗いながら自分たちの行く末を案じ、娘にも相談せず加入した父が哀れだった。3枚の保険証書が本当に恨めしかった。
◆月額3000円の保険料がもったいないような気も
3つのがん保険は、契約者死亡で解約するか、契約者を母に変更して母の分を継続するかの選択を迫られた。
プロバイダーや通販などは「高齢につけ込んで…」と、苦々しい思いで即、解約したが、保険はさすがに迷った。
母は「パパったらバカね、3つも」と相変わらず無頓着。でも悩んだ末、2つを解約、1つを継続することにした。保険料は月額3000円余り。当初は父の思いが詰まった“お守り”と思えたのだが、あれから早6年がたった。
母は84才になり、認知症はあるが、がんは患ったことがない。もちろんリスクはあるが、これから発病したとして、高額な先進医療などを受けるだろうか。入院費用をある程度カバーする別の医療保険にも入っている。
こう考えると、毎月母の口座から引かれる約3000円をがん保険に充てるべきなのか。母の好物のうな重が食べられる金額だ。天ざるそばなら私とふたりで楽しめる。落語や映画に使った方が有意義ではないか…と迷う。
生きる残り時間がそう多くはない高齢親の時間とお金の使い方、働き盛りの子世代の立場で考えるのは実に難しい。
※女性セブン2019年5月2日号