横浜駅東口を出てすぐ右手に伸びる小路。その入り口に立つと、シルクハットに蝶ネクタイで決めたおじさんをユーモラスに描いた縦長の絵看板を掲げたビルが見える。この1階が、“ハマの角打ちの名店”として知られる『キンパイ酒店』、大正13年からの歴史をもつ店だ。
看板の絵を描いたのは、先代(3代目)の竹内一さん(故人)。「角打ちマナーにはとにかく厳しかったけれど、訪れる人への対応はやさしくて、誰からも慕われ続けた」と皆が口を揃える。
「この看板が結構大きいんで、灯が入ってると遠くからもはっきり見えるんです。それを見て、おう、今日も開いてるなって安心するわけですよ。この安心感、ほっとする感覚、何物にも代えがたいものがあります」と、常連サラリーマンが語る。
その灯は、平成27年の暮れを最後にしばらく、消えていた。その理由を、長女の竹内貴代子さんが話してくれた。
「父が体調を崩して、やむなく休業したんです。『キンパイ酒店』ロスの常連さんのために、このビルの2階で私が開いている『居酒屋クラーテル』の一部を角打ちスペースにして、父の回復を待っていたんですけどね。残念ながら2年後に亡くなりました。1階の店をどうしようかとなったとき、父を慕ってくれていた大勢の皆さんの後押しがあって。そこで、妹(貴美子さん)と弟(靖憲[のぶかずさん]・42歳)と3人で再開することにしたんです」
それが、平成30年9月のこと。店内は、休業した当時の雰囲気そのままだ。