福山雅治主演で初回視聴率13.8%の好発進を切った日曜劇場『集団左遷!!』。福山にとって3年ぶりの連ドラ出演で、初の銀行員役ということでも話題に。これまで日曜劇場では企業ドラマがヒットしてきたが、それらとの共通点とは? コラムニストのペリー荻野さんが解説する。
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TBS「日曜劇場」の企業ドラマのヒット作『半沢直樹』、『下町ロケット』、『陸王』、そして今季の新作『集団左遷!!』の共通点は何か?
・主人公が「熱い男」である。
・仲間とともに逆境に立ち向かう。
・強烈キャラの敵が現れる。
どれももちろん正解だが、もうひとつ、「できた嫁(元妻も含め)がいる」というのがある。『集団左遷!!』では、長年銀行に勤めてきた主人公・片岡(福山雅治)が、支店長に抜擢され、喜んだものの、任されたのは「廃店」が決まっている鎌田支店。リストラを推進する人事担当の取締役・横山(三上博史)からは「頑張らないように」とクギを刺されるが、片岡は生来の頑張り気質で、鎌田支店廃店撤回の下剋上に挑むことになる。
初回から取引先の社長に逃げられそうになるわ、部下に「死にたい」と言われるわ、横山の指示で支店に調査が入るわ、困った事態が連発する。そんな夫を見守る妻のかおり(八木亜希子)は、支店長就任祝いに赤飯を炊く。なのに、夫はゆっくり食べる時間もない。それでも彼女は夫に怒ることもなく、マイボトルにドリンクを用意。ダダダッと小走りで帰宅した片岡は、ボトルを握りしめて、またダダダっと走り出ていく。マラソンの水分補給か。そんなことの繰り返しであっても、かおりは落ち込む夫に絶妙なタイミングで「アイスでも」と差し出すのだ。肉でも酒でもなく、アイスというところに「ともだち感」「同士感」が出て、心憎い。
考えてみれば、『半沢直樹』では、忙しすぎる半沢(堺雅人)に文句を言ったり、「ぜってー、負けんじゃねーぞ」と発破をかけたりした強気モードの妻(上戸彩)が、夫の勤める銀行の妻たちが集まる奥様会に出て、情報を収集するなど地道に活動。その情報が夫の「倍返し」の決定打を作った。また、『下町ロケット』では、主人公の佃航平(阿部寛)の会社が理不尽な訴訟に巻き込まれそうになったとき、元妻の和泉沙耶(真矢ミキ)が力になってくれる弁護士を紹介したのだった。
『陸王』では、老舗足袋屋を営む主人公宮沢(役所広司)が、ランニングシューズ開発という夢を追いかけ、息子(山崎賢人)と対立しても、宮沢の妻・美枝子(檀ふみ)は、ほんわかと見守る。このドラマでは、工場のベテランで縫製課のリーダー正岡あけみ(阿川佐和子)が仕事上の女房役で宮沢をサポートしていたのも忘れちゃいけない。
ギリギリまで追い詰められた主人公たちが、ささやかなヒントをきっかけに逆転ホームランを打つ。その気持ちよさこそ、「日曜劇場」企業ドラマヒットの不可欠要素。『集団左遷!!』のかおりは、若いころはアナウンサー志望で、銀行の窓口時代はアイドル的存在だったという。
『あまちゃん』の元地元アナウンサー役に続き、かおりは八木亜希子のためにあるような役ともいえる。かおりは何かヒントを出すのか? それとも出すのは、マイボトルとアイスだけ? 彼女の存在をどう活かすか。このドラマの成功に大きく関わってくる気がする。