これまで何度もドラマや映画化されてきた、弥次さん喜多さんの珍道中。今、再びドラマ化され、自由な設定が話題を集めている。その見どころについて、時代劇研究家でコラムニストのペリー荻野さんが解説する。
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平成から令和へと変るこの時期に、まさかこの二人に会えるとは思わなかった。BSテレ東で放送中の『やじ×きた 元祖・東海道中膝栗毛』の弥次郎兵衛(松尾諭)と喜多八(和田正人)。ご存知、十返舎一九原作、“江戸最大のベストセラー”ともいわれる『東海道中膝栗毛』の主人公たちである。
女と女房に捨てられた、元役者の喜多八と絵描き気取りの弥次郎兵衛は、伊勢参りの旅に出ることに。しかし、元来のお調子者の二人は、行く先々でトラブルに巻き込まれる。
ポイントは、とにかく二人が女好きなこと。箱根の賭場では、胸の谷間もあらわな壺振りの姐御(水崎綾女)に「うっふん」と目配せされた喜多さんがメロメロに。三島に向かう街道では、弥次さんが、女の旅人(中村彩実)に「袖すり合うも他生の縁、ついでに夜も…」なんてことを言って、「この爺が!!」と罵倒されて土手から転げ落ちる。宿の女将(宮嶋麻衣)が美人だからと、夜中に二人して、彼女の布団に潜り込もうとする節操のなさである。
一方で、違法な誘拐や人を泣かせる盗賊たちには、堂々と立ち向かう二人。パンチもキックも棒術も駆使して大暴れし、たちまち悪人たちを倒してしまう…って、あれ? 弥次喜多って、こんなに強かったっけ? 制作スタッフが、かの『水戸黄門』チームだと聞けば、やっぱりラスタチ(勧善懲悪時代劇に欠かせないラストの大立ち回り)は、やらずにはいられないってことですね。
もうひとつ「やらずにはいられない」のは、このドラマに出てくる十返舎一九先生ご本人。演じているのは、竹中直人。先生は、弥次喜多を密かに見守り、事件の真相をいち早く知らせようと、しばしばメッセージを紙飛行機にしたためて飛ばすのだが、弥次喜多はほぼ無視。
おかげで悪人に見つかった先生は、腹を刃物でブスリとやられてしまう。「なんじゃ、こりゃあああ」って、絶叫する先生。松田優作ジーパン刑事殉職シーンじゃないんだから。しかも、先生は、腹に入れていた分厚い原稿用紙(和紙です)のおかげで無傷だし。
弥次喜多は、江戸の肉食男子という言い方もされているが、「女、女、女…」とうわごとで言うほどの欲望一直線の女好き男は、今どき、現代ドラマではなかなか出せない。お色気あり、下ネタあり(第三話で弥次さんは捕まったままトイレに行けず、便意にともだえながら、ついにその場で…)ができるのも、江戸時代の原作がある時代劇ならではだ。
思えばこの原作は、まったくの別テイストで『真夜中の弥次さん喜多さん』として映画化されている。弥次さん(長瀬智也)と喜多さん(中村七之助)が、熱烈な恋人同士という設定にはファンを驚かせたが、なんだかもう、何が起きてもいい、自由な話なんだということだけは、よくわかった。ネームバリューもあり、自在にアレンジできる弥次喜多の物語が繰り返し、舞台、映画。ドラマになるのも納得だ。
平成から令和へとするりと抜けていく弥次喜多の姿を見ながら、なんだか平成生まれのドラマキャラは、あれはダメ、これはやり過ぎと窮屈になってるなあと思わずにはいられない。江戸キャラは強し。