映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優・伊東四朗が、役者人生をスタートさせた喜劇役者・石井均の一座で学んだ、「芝居はリアクション」について語った言葉をお届けする。
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伊東四朗は一九五八年、喜劇役者・石井均の一座から役者人生をスタートさせる。全く経験なく飛び込んだ伊東に、石井は芝居のさまざまなことを教えた。
「いちばん教わったのは、『芝居はリアクションだ』ということですね。喋っている芝居ではなく、それを聞いている芝居が一番難しいんだ、と。それは今でも肝に銘じてやっています。
口立ての芝居でも台本のある芝居でも、三日か四日あれば相手のセリフを覚えてしまうことがあるんです。それがよくない。
相手のセリフが入っていると、『知っている目』になるんです。そうするとお客さんより目も口も反応が速くなる。たとえば、『~~なんですよ』『そうなんですか』というやりとりをするとします。その時、お客さんは最初に聞いた『~~なんですよ』というセリフの意味を頭のどこかで解釈をしているんです。ですから、その間を待って『そうなんですか』とリアクションしないといけない。
でも、ついそれより速く『そうなんです』と言っちゃう。『それは不親切だ』と座長は言っていました。『リアクションは、お客さんと同じタイミングになれ』と。
それはリアクションに限りません。相手のセリフに対して『知っている顔』はダメです。その顔になったら、ウケるところがウケなくなる。お金を払ってくるお客さんというのは凄い。一番勉強をさせてもらっています。ですから、今でも私は自分が演出したり台本を書いたりした芝居では、客席に自分を置いている心がけでやっています」
喜劇は何よりお客さんの「ウケ」が重要である。喜劇人として、それを求める伊東の姿勢は驚くほどにストイックである。