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差別語の不可解、ノートルダム大聖堂の火災事故で想起

評論家の呉智英氏

 放送で使用が禁止されていたり、新聞や出版物で使われることが推奨されない言葉がある。いわゆる「差別語」とされるものだ。評論家の呉智英氏が、パリのノートルダム大聖堂火災事故のニュースに接して喚起された、差別語の不可解について論じる。

 * * *
 ノートルダム大聖堂の火災事故を報じる四月十六日付朝日新聞夕刊を読んで、私は思わずにやりと笑った。大聖堂の解説にこうあったからだ。

「『ノートルダムのせむし男』など、映画の舞台にもなった」

 朝日新聞は三十年ほど前にはこれが書けず、『ノートルダムの男』という珍妙なゴマカシ表現をしていたのに。映画の原題はHunchback of Notre Dameである。

 この有名な映画は、マンガにも翻案されている。ちばてつやのデビュー作『復讐のせむし男』である。十七歳の少年の作品とは思えない出来栄で、後の活躍を予言しているようだ。しかし、これは長く復刻されず、二〇〇三年に復刻された時も、書評では全く取り上げられなかった。

 そのちばてつやの『ひねもすのたり日記』は、昨年手塚治虫文化賞特別賞を受賞した興味深い自伝マンガだが、その中に気になる記述がある。ちば少年は家族とともに満洲で終戦を迎え、ロシヤ兵や支那人暴徒に怖い目に遭う。日本人の工場長がこう言う。

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