中国人の購買力の高さは世界的に有名になったが、まだまだ独特の“取引事例”には事欠かないようだ。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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今年4月中旬、一人の女性が西安の販売店に展示されていた高級車・メルセデスベンツのボンネットの上に座り、大声で店の対応に抗議する動画が中国で大きな話題となった。
この女性は自分が買ったベンツが、購入直後からオイル漏れをおこしていた問題で、別の車との交換を要求しても聞き入れられなかったことに抗議したのだが、後にベンツ本社が彼女の要求に応じ、その上ドイツに招待するなどといった丁重過ぎる対応を発表し、さらに大きな話題となった。
報道の後には、彼女を真似てボンネットに座り込む人が相次ぐというニュースもメディアを騒がせた。2匹目のドジョウを狙った行為には、さすがにネット上でも批判が広がったが、この問題の余波は5月に入ってもくすぶり続けている。
「あの事件はいま、なんと金融の問題に飛びしてしまったのです」
と話すのは、北京のメディア関係者だ。
「ベンツ販売店の対応に問題があると騒いだ女性の件がきっかけで、彼女が支払ったときの費用の明細が公の目にさらされたのですが、そのなかで、『金融サービス費』という項目があって、たちまち『これは何だ?』となったのです」
明細によれば、その金額は1万5000元。日本円にして約25万5000円だから、決して少ない金額ではない。ネット上ではたちまち、「中国銀行保険監督管理委員会に調査をさせろ!」という声が高まったのだ。
この問題は結局、現在に至るまできちんとした答えは出ていないのだが、同じころに出た『中国新聞』の記事によれば、北京では36万元のローンに対して7500元(約12万7500円)の金融サービス費が計上されるという。西安のケースは高すぎたようだが、記事中で取材に応じた弁護士によれば、いわゆるローンの手数料に過ぎないこのサービス費も、消費者への事前の説明と了解、さらには明細の提示と領収書の発行があれば合法なのだという。
もしこれが問題ということにでもなれば、再び高級車販売店の前では、抗議の消費者であふれかえることだろう。