国民に微笑み、雅子皇后を労る新天皇に人間的な親しみを覚える人も多いのではないか。昭和天皇が戦後行った「人間宣言」以降、天皇と国民の距離は近づき続けている。そして、その流れを決定づけたのは、新天皇の皇太子時代の発言だという。思想史研究者の片山杜秀氏が近代天皇制の流れを踏まえた上で解説する。
「どんなに近づいても親しみを覚えても、日本人にとって天皇は神であることに変わらないと思うのです。人間宣言をしたからといって、天皇をただの人間と捉えるのは、あまりにも原理主義的な考え方でしょう。神だったはずの存在が、人間のなりをして手を振ってくれるから、日本人はありがたがるわけです」
片山氏の言葉を借りれば、天皇が身近になったというよりも、神が身近になったということである。
「ただの人間なら愛新覚羅溥儀(満洲国最後の皇帝)のように一人の人民になればいい。でもそうはならなかった。そこに天皇制を廃して、共和制に移行しようという議論に進まない鍵があるような気がします」(片山氏、以下同)
昭和から平成の改元時は、左派の論客や政治家の間で、共和制への移行の議論が行われた。しかし、今回は天皇制への疑問や、共和制に触れる声がほとんどなかった。
「それは天皇の存在感に変化が起こったからと言えるでしょうね。新天皇を見てみるとよく分かる。皇太子時代の雅子妃に関する『人格否定発言』で、家族を必死になって守る家庭人のイメージが多くの国民に定着しました」
一方で片山氏は、新天皇について「皇室が国民の方に近づき過ぎた気がしました」とも語る。上皇は「象徴天皇」として被災地や沖縄に足を運び、国民との距離を縮めた。新天皇はどのような形で国民に近づくのか、あるいは遠ざかるのか。
*佐藤優・片山杜秀著『現代に生きるファシズム』(小学館新書)を再構成。同書の刊行記念イベント「令和時代を生き抜くために」が6月24日に紀伊國屋ホールにて行われる。詳細はhttps://www.kinokuniya.co.jp/c/label/20190424103000.html