国内ではあまり知られていないが、日本人は世界の中でもよく薬を飲む国民といえる。例えば、インフルエンザになったら薬は必須と思いがちだが、欧米では自宅療養で治すのが基本。
薬の量だけではない。日本人全体が1年間に使う医療費は42兆円を超え、うち2割を超える約10兆円が薬剤費だとされる(2017年度)。1人当たりの医薬品費等支出はアメリカ、スイスに次ぐ世界3位だ。
また、1人当たりが服用する薬の「種類」もきわめて多いのも特徴でもある。薬剤師の中には、「実は効かないのに」と思いながら処方している人も少なくないという。
“癒し”を求めて薬をのみ続ける患者と、黙々と調剤する薬剤師を尻目に「薬利権」を巧みに利用しようとする医療従事者も存在する。『知ってはいけない薬のカラクリ』(小学館新書)の著者で内科医の谷本哲也さんはこう指摘する。
「抗生物質や血圧を下げる降圧剤など、医師が処方する薬は約1万8000品目にのぼります。それらを作って供給できるのは製薬会社だけで、患者に処方できるのは医師だけです。薬を売りたい製薬会社と、その唯一の使い手である医師の関係が深まり、癒着に発展してしまうケースは、残念ながら散見されます」
医師と製薬会社の過度の癒着は、これまでもたびたび問題となった。過去には大学病院の廊下に製薬会社のMR(医薬情報担当者)がズラリと並び、夜な夜な過剰な接待が繰り広げられた時代もある。
そうした慣例に批判が高まり、2012年4月、日本で医師への過剰な接待の規制が強化された。以降、医療用医薬品製造販売業公正取引協議会によれば、1人当たりの飲食の上限金額がパーティーでは2万円、打ち合わせでは5000円、弁当代は3000円までと定められた。
だが、製薬会社の「営業攻勢」は今もひっそりと続く。
「製薬会社が大学病院などで開催する新薬の説明会では、2000円程度の高級仕出し弁当が出席する医師たちに無料で配られます。この場は製薬会社にとって高価な新薬を売り込む絶好の機会です。
“高給取りの医師が、たかが弁当に釣られるのか”と首をかしげる人もいるでしょうが、その効果はバカにできません。実際にアメリカでの研究では、20ドル(約2200円)未満の金額でも、製薬会社から食事の提供を受けた医師では、その会社の薬の処方率が増加していました。たとえ弁当であっても、医師の判断に影響を与える恐れがあるのです」(谷本さん)
◆生活習慣病の薬が…
弁当ではなく現ナマが飛び交うことすらある。