日本人は世界の中でもよく薬を飲む国民である。1人当たりの医薬品費等支出はアメリカ、スイスに次ぐ世界3位だ。さらに、1人当たりが服用する薬の「種類」もきわめて多い。薬剤師の中には、「実は効かないのに」と思いながら処方している人も少なくないという。
この状況の背景には、医師と医薬品会社の癒着があるともいわれている。
調査報道を手がける「ワセダクロニクル」と「医療ガバナンス研究所」が共同で調査したところ、2016年度に製薬会社から医師に渡った講師謝金、コンサルタント料、原稿執筆・監修料は総額およそ266億円に及んだという。
2012年には、大手製薬会社「ノバルティスファーマ」が発売する高血圧薬の臨床研究に関するデータがねつ造される事件が発覚。ノバルティス社から多額の寄付金を受けた医学部研究室が高血圧薬に効果があるように見せかけるためにデータをねつ造して、結果的に1兆円以上を売り上げた高血圧薬の販売促進に貢献したのかが問われた。
「薬を作る製薬会社」と「薬を処方する医師」が癒着する構図は、世界中どこでも見られるのだが、実は、日本では特にそれが顕著になる傾向がある。薬学博士で医療ジャーナリストの天野宏さんはこう言う。
「江戸時代までは、漢方医が診断・治療を行い薬の調合も担ってきましたが、明治になってドイツ式医薬制度が導入され、診断・治療は医師、薬の調合は薬剤師といった医薬分業が明文化されました」
しかし、「分業」の実態は、医師が診断を基に薬を決め、薬剤師はそれを医師の言うとおりに用意するに留まった。その結果、医師と薬の関係が強まり、患者は薬剤師ではなく医師から受け取るものと考えるようになったという。
「本来ならば医師は診断・治療のプロであり、薬のプロではない。きっちり医薬分業して薬のプロである薬剤師が処方薬については責任を持つべきですが、医療現場ではまだまだ医師にもの申せないのが現状のようです」(天野さん)
医師と薬剤師の地位の差は日本特有のものだ。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんはこう語る。
「欧米諸国では、薬剤師の社会的地位や年収は日本よりも高いうえ、権限も大きい。例えば、最初だけ医師の診断を受ければその後は医師のもとに通わずとも薬剤師から薬をもらえる“リフィル処方箋制度”が挙げられます」
本来は、医師と薬剤師と製薬会社がバランスを保って、患者に薬が届けられるべきなのだが、日本では薬剤師の権限が弱く、薬を処方するのは医師だけ。だから、製薬会社と医師が密着しやすいのだ。