「高校卒業して50年、同窓会を控え、本の題名に惹かれてすぐ近くの書店に注文。一気に読みました。すべてに納得、まさに人は人、自分は自分で頑張ろう!」(68才・女性)
「自分の身の回りに起きていることが書かれていたので思わず苦笑してしまいました。これからの自分に元気と希望をもらうことができた本です」(70才・女性)
「高齢になっても前向きに生きることの大切さをやさしい言葉で説き、元気を与えてくれる」(86才・男性)
編集部には読者からの感想が続々と届いている。現在4刷のベストセラーとなっている『70歳のたしなみ』。昭和女子大学理事長・総長の坂東眞理子さん(72才)が同世代の団塊世代、これから高齢期を迎える年若い人たちに向けて、幸せに生きるための心構えを綴ったものだ。
◆「好きに」「のんびり」は極端だと指摘されかねない
一時は、書店から本が消える異例の事態になるほど高い支持を得ているのはなぜか。中央大学文学部教授の山田昌弘さんは、「坂東さんが、極端に走らない現代の“中庸の美徳”を説いているからではないか」と分析する。
「1960年頃までは日本人の平均寿命は60代後半でした。その名残で定年後は残された余生を好きにのんびり過ごしたいという風潮が続いていました。しかし、今は平均寿命が延び、人生100年時代といわれている中で、ややもすると余生は40年続くかもしれないわけです。そうした中で、『好きに』『のんびり』暮らすのはもはや経済的にも精神的にも不可能に近くなっています。
その意味で、『もう歳だから』と仕事を辞めてしまったり、何を言っても許されるだろうと相手の気持ちを考えずに発言したりするのは『極端』だと指弾されかねないわけです。
『70歳のたしなみ』ではそうした極端で好き勝手な振る舞いを戒め、70才を過ぎたら意識して上機嫌に振る舞い、低賃金でも積極的に働くことを勧めています。このように、高齢を言い訳にせず、否定もせず、自分の老いを前向きに受け入れることこそ、現代では中庸なのです。そして、こうした中庸の美徳を説く本は、これまで類書がありませんでした」(山田さん)
山田さんは2004年に『希望格差社会』という自著で、努力が報われる見通しがあり将来に希望が持てる層と、努力しても保証がなく将来に希望を持てない層との格差を論じた。
15年経った今、希望の格差はますます広がっている。とりわけ高齢者においては体の衰え、金銭的な問題などが立ち塞がり、希望を持つことが難しくなっている。
「そのかつてない超高齢社会の最前線に立っているのが団塊世代です。長い高齢期を希望を持って暮らすモデルケースがなく戸惑っているその人々に向けて、また格差が広がる現代において、われわれ日本人がいちばん安心できる『中庸』と、希望を与える生き方を示してくれているのだと思いますね。だから売れているのでしょうし、私もその時が迫っているので、坂東さんが書いているようなたしなみを持って生きて行きたいと思いました」(山田さん)
※女性セブン2019年5月30日号