外反母趾というと、若い女性がハイヒールを無理に履いて起こるイメージがある。一方、シニア向けの靴にも“外反母趾対策”と銘打ったものをよく見かけるのだが、高齢になり、楽な靴を履くようになっても外反母趾が問題になるのだろうか。
足のナースクリニック代表一般社団法人日本トータルフットマネジメント協会会長の西田壽代さんはこう言う。
「外反母趾は足の親指の関節が外側に曲がって変形するもの。遺伝や足指の形が原因の場合もありますが、日常生活で原因となるのは合わない靴や歩き方のクセ、筋力の低下。先の細い靴で足先を圧迫し続けたり、足先や足裏全体でするような歩き方をしたりすると、親指の付け根に負担が集中し変形しやすくなります。
筋力がしっかりあるうちは、靴や歩き方を変えることで足の変形は起こりにくくなりますが、高齢者は基本的に筋力が低下しているので難しい。ひどくなると親指が脱臼し、第2趾(親指の隣の指)に重なるほど曲がってしまうこともあります。
曲がって突出した部分が痛んで歩行困難になったり、バランスが悪く転びやすくなったり。痛みをかばって不自然な歩き方になり、ひざや腰に痛みが波及することも。高齢者にはリスクが大きいのです」(西田さん・以下同)
高齢者の外反母趾が引き起こされる理由は以下の通り。
足指の筋力が衰え、中足骨が扇状に広がった状態で足先が細い靴を無理に履いたり、足先に負担が集中するすり足のような歩き方を続けると、親指の関節が内側に曲がってしまうのだ(図参照)。
また高齢になると土踏まずが平らになりやすく、これも歩行に関係しているという。
「筋力が低下すると足裏のアーチ(土踏まず)が崩れてきます。いわゆる偏平足。こうなると足の骨(中足骨)が扇状に広がって、靴の中での圧迫が強くなり、外反母趾のリスクが高まります。また偏平足では歩行による衝撃が吸収されにくいため疲れやすく、足裏の指の付け根に負担がかかってタコができます。これが石のように硬くなると、とても痛むのです」
歩行が減って筋力がますます落ちると、足の爪にも影響が及ぶことがあるという。
「爪は指先を保護するように生え、柔軟性があります。これは爪自体が丸まる性質があり、歩くとき、足指が地面を蹴り出す際の衝撃を受け止める役割を担っています。歩行が減ったり、外反母趾で親指をしっかり使えない状況では役割を果たせず、爪は過剰に丸まっていきます。これがいわゆる巻き爪。爪のへりが皮膚に食い込んで炎症を起こし、痛むこともあります。
外反母趾も巻き爪も、発症には個人差も大きいのですが、歩行が減り、足の筋肉を使わないことは大きな要因。寝たきりになったことで、外反母趾や巻き爪が発症、悪化するケースも少なくありません」
こうした高齢者の外反母趾防止には、お風呂上がりの足の動きをよくするマッサージがオススメ。保湿を兼ねて、手に保湿クリームやローションをつけてマッサージ。肌に触れることだけでもリラクセーションになる。
さらに、加齢で筋肉が硬くなることに加えて、普段歩いていないとますます硬くなる。骨と骨の間をゆっくりなぞるようにマッサージを。家族がやってあげる場合、足を両手で包み込むように持ち、指の骨に手指を添えてやさしく上下に動かしてほぐしましょう。
※女性セブン2019年5月30日号