官僚的なイメージが伴う東京大学に対し、全国から“奇人”が集うユニークさで知られる京都大学。学生以上に個性的なのが教授陣だ。研究に懸ける異常な情熱は、時に世間から“非常識”と見られてしまうことも──。『京大変人講座』(三笠書房)が累計2万5000部のベストセラーになっているが、知れば知るほどオモロイその生態をレポートする。
情報学研究科の川上浩司・特定教授は個性的だ。川上氏は「不便益」なるものを調査・研究している。
不便益とは「不便だからこそ得られる利益」のことをいう。たとえば川上氏は、遠足のお菓子は「300円分まで」などの制限があるからこそ、かえって商品を選ぶワクワクを生み、遠足の価値を高めることに貢献しているとする。
また「階段や段差の多い施設」「手すりのない廊下」など、あえてバリアフリーに逆行する施設を高齢者に使わせることで老化を防止するという考え方も「不便益」の発想だ。このような研究のために、川上氏はスマホや携帯電話を持たない生活を送っている。
「工学部の人間は効率や便利さを追い求めるが、世の中に“不便だからいいこと”があるなら、その使い方を研究しようというのがこの学問の発想です。
そのための実験装置も開発しました。たとえばスマホ用のナビ『かすれるNAVI』です。ナビは便利ですが、それに頼ると道を覚えなくなる。だから逆転の発想で、通ったことのある道はだんだんかすれていき3回通ると道が真っ白になるナビを作ったのです。
道が消えてしまうから“しっかり覚えよう”という深層心理が働いて、いつの間にか道を覚えるのです。同じような発想で『かすれる電子辞書』も企画した。こちらは商品化寸前までいきましたが、“さすがに不便すぎて売れない”とボツになってしまいました(笑い)」
京大生協の売店で大ヒット商品となっている「素数ものさし」も川上氏がプロデュースしたものだ。2、3、5、7、11、13、17と素数の目盛りしか示されていない。たとえば4cmの線を引くには「7-3」の素数の差を使うなど、その不便さが脳を活性化させるという。
※週刊ポスト2019年5月31日号