「ママがいちばん好き」と言ってくれたかわいい乳幼児期から、口もきいてくれなくなったつらい反抗期を経て、ようやく一人前になって旅立つわが子…これで育児もひと段落、自由時間も増えて喜ばしいこと尽くしのはずなのに、なぜかやる気が起きない──。それは「空の巣症候群」(からのすしょうこうぐん)のせいかもしれません。
空の巣症候群とは、子育てにすべての情熱を注いできた40~50代の母親が、子供が巣立った後、心が空っぽになり、何もやる気が起きない、生きている意味がわからない、眠れないなどのうつ症状に陥ることだ。
37才で離婚し、女手一つで4人の子供を育ててきた雲林院(うじい)友子さんが、空の巣症候群になったのは、4年前の春。末っ子が独立した時だったという。
「長男と次女は進学のために、長女は結婚のためにと、次々に家を出て行きました。そして、甘えん坊だった末っ子も就職が決まり、ついに家を出ていった時、私はほっとしたのと同時に、とてつもないさびしさに襲われました。覚悟はしていたものの、いざひとりになると、深い孤独を感じるようになってしまったんです」
それから半年間、何にも興味が持てず、友達に会う気にもなれない日々が続いた。
「子供のために無理してお金を稼ぐ必要も、家事をする必要もない。ご飯も自分の分だけなら作らなくていいやと、どんどん無気力に。4人の子供と住んでいた4LDKのマンションは、ひとりで住むには広すぎるし、部屋には子供たちが使っていた思い出の机やベッドがそのまま置いてある。この家だけ時間が止まってしまったようで、家にひとりでいるのが本当につらかったです。私はサバサバした性格ですし、仕事もあったので、まさかこんな気持ちになるとは思いませんでした。ひどい時は夜も眠れませんでした」
◆孫育と新しい仕事が張り合いになった
そんな彼女を救ってくれたのが、長女が産んだ2人の孫と、再婚した夫だ。
「さびしそうにしている私に長女が、“働きに出るから子供たち2人の面倒を見てくれないか”と相談してくれたんです。小さな子供は、ただそこにいるだけで力をくれますよね。声を聞いているだけでも元気になりましたが、“責任をもって面倒を見ないと”と張り合いが出ました」
この時期、仕事も新たな局面を迎えた。雲林院さんは当時、再婚した夫が経営する居酒屋で働いていたのだが、その店を全面リニューアルすることになったのだ。銀行から10年の契約で融資をしてもらい、“返済のために働く”という新たな目標ができた。
「新しい店を始めるにあたり、4LDKのマンションを引っ越し、夫との同居をスタート。子猫も飼うことになり、新しいこと尽くしの生活が始まったんです」