【著者に訊け】森田真生氏/『数学の贈り物』/1600円+税/ミシマ社
〈いま、ここ〉に、停滞しようというのではない。〈いまがいまであり、自分が自分であるままに、気づけば冬は春であり、生者は死者に化している〉〈だから、いまある場所を引き受けることは、いまある場所にとどまることではない〉と、『数学の贈り物』の著者・森田真生氏は、いまここ=presentの儚さ、豊かさと、あくまで能動的に対峙する。
〈数学を緒に〉、より全人的な知と学びを追求する彼は、文系から理系に転じ、思索者へと転じた、独立研究者。そして〈情緒〉による知の確立を説いた明治生まれの数学者・岡潔や芭蕉、フランシスコ・ヴァレラといった先人の言葉に導かれ、また日々の暮らしから得た様々な発見を、19篇の贈り物として本書に綴る。
それは先人から著者へ、読者へと手渡された時空を超えたプレゼントでもあり、現在と過去と未来とを繋ぐもの――本書ではそれを〈理性(reason)〉と呼ぶ。
〈現在と過去をつなぐ「理由」。「いま」から未来を導く「推論」。「理由」も「推論」も英語ではreasonという。「いま」だけにはいられない人の心は、reasonの力で過去や未来を想い、そして「理性(reason)」の力で他者の心を推し量る〉とある。幼少期をシカゴで過ごし、東大文II時代に岡潔の著作『日本のこころ』(1967年)と出会って数学科に転入した若き異能は、言語の垣根を越えて本質に立ち帰ることのできる、言葉の越境者でもあった。