「ママがいちばん好き」と言ってくれたかわいい乳幼児期から、口もきいてくれなくなったつらい反抗期を経て、ようやく一人前になって旅立つわが子…これで育児もひと段落、自由時間も増えて喜ばしいこと尽くしのはずなのに、なぜかやる気が起きない──。それは「空の巣症候群」のせいかもしれない。
空(から)の巣症候群とは、子育てにすべての情熱を注いできた40~50代の母親が、子供が巣立った後、心が空っぽになり、何もやる気が起きない、生きている意味がわからない、眠れないなどのうつ症状に陥ることだ。
「私は心理学を勉強していて、空の巣症候群のことは理解していました。そうならないよう準備をしていたのに、陥ってしまったんです」
とは、子育て関連の講師をしてきた臼井頼子さん(50才)だ。
「私は愛情を注ぎすぎるところがあるので、子供たちが家を出たら危ないと思っていました。だからこそ、仕事を増やしたり、『やりたいことリスト』を作って備えてきたのですが…」
娘が引っ越しをする3月が近づくにつれ、さびしさが襲いかかり、SNSにそんな心情を綴ったという。すると、
「自立はいいことなんだから喜ばなきゃ」「マイナスに考えていたら自立を阻むよ!」
といったコメントばかりで、誰からも共感されなかった。
「これが、さらに落ち込む原因に。友人と気持ちを共有したかっただけなのに、受け入れてもらえず、自分のこの感情は悪いことなのかと悲観的になりました。自立が喜ばしいことは百も承知。でも湧き上がるさびしさは抑えられないんです」
そして娘を送り出すと、無気力に。化粧もせず家でテレビを見てお菓子に手を伸ばすだけの日々が続いた。
◆「さびしい」から「むしろ楽」に
3か月が過ぎた頃、臼井さんは、考え方を変えることに。
「子供といる時間って、本当に短い。子供は授かりものじゃなくて、神様からの預かりものなんですよね。なのに、子供を持った瞬間、人生のすべてを子供にかけてしまう母親って多いと思うんです。私もそう。でも、夫との生活の方が長いんです。だから、夫との関係をよくしておかないといけないと思い、ふたりで旅行に行くことにしたんです。沖縄の離島に7泊8日。夫婦ふたりきりで長期の旅行なんて、新婚旅行以来でした」
島では、子供が楽しめないと思って今までがまんしてきた、「ただ風景を楽しむ」とか「ハンモックに揺られて読書を楽しむ」といった、大人ならではの“遊び”を楽しんだという。
「忘れかけていた独身時代の感覚がよみがえってきて、また自分の時間を楽しもうという発想になれたんです。さびしいという感情が薄れ、“これが楽”という気持ちになれました」
帰ってからは一転、飲み会やイベントに参加。趣味のカメラでは、美しく撮られる方法を教えるためのランチ会も開催するようになり、さびしさは解消されたという。
「さびしい気持ちは悪いことじゃない。自分だけでも、仕方ないって許してあげて」
気持ちに蓋をすると行き場をなくしてしまう。一度受け入れることが大切なようだ。
※女性セブン2019年6月6日号