現在、世界中で愛されている日本の“シティー・ポップ”。山下達郎や竹内まりや、大瀧詠一らが代表格だ。米英を中心とした欧米のレコードコレクター、DJなどが“日本の音楽は熱いぞ”とインターネットを通して発信したことが、世界規模で知名度を高めた一因だという。
「日本からの発信ではなく、海外の音楽マニアがSNSで発信したことこそが、世界中に拡散した要因でしょう」
そう解説するのは音楽ライターの栗本斉さん。
そのムーブメントを現地メディアが取り上げ、さらに拡大していく。昨年6月には30か国以上に配信されている若者に人気のデジタルメディア『VICE』で、イギリスの音楽ライターが“日本の80年代シティー・ポップが最高”と題し、竹内まりやの名曲『プラスティック・ラブ』がいかに素晴らしいかを猛プッシュした。すると、動画サイトでは2000万回以上再生され、コメント欄には世界中から書き込みが寄せられ、熱狂に沸いた。
また、海外のミュージシャンにカバーされているのも注目度が上がった要因の1つだ。音楽ライターの金澤寿和さんはこう説明する。
「この曲が海外でずば抜けて人気なのは、演奏はバンドサウンドでありながら、まりやさんのポップなメロディーと、デジタル的な音作りが見事にマッチし、30年以上前の曲だというのに、まったく古さを感じさせないからでしょう。そうした点が、近年盛り上がる80年代のダンスミュージック人気に重なったといえます」
とあるレコードショップでは、『プラスティック・ラブ』が収録された竹内のアルバム『VARIETY』が目立つコーナーに陳列され、日本語とは別に、海外からの客のために英語でも紹介文が貼り出されている。
『ディスクユニオン新宿 日本のロック・インディーズ館』店長の松岡秀樹さんはこう話す。
「レコードで『プラスティック・ラブ』だけを収録した12インチ盤シングルは値段が高騰しています。しかも最近では国内外でカバーされる機会も増え、さらに価値が上がっています。日本人も高値で買っていくうえ、海外の人も探しているので、1枚の価格は万を超えます」
シティー・ポップの象徴的作品である山下達郎のアルバム『FOR YOU』も日米2か国語の紹介文がつけられている。
「『SPARKLE』など有名な曲も入っていて、全編を通してクオリティーが高いので、レコード盤は入荷してもすぐ売り切れる状態です。常に品薄でどんどん値が上がりますが、それでも瞬く間に売れていきます」(松岡さん)
山下の復刻盤レコードはいくつか発売されているものの『FOR YOU』はいまだに復刻されていない。
「ご本人のラジオで、“『FOR YOU』の音は当時のプレスでしか表現できない”といったお話をされていたので、今後も復刻される予定はないと思います。そういった理由もあり、とても貴重なレコードとして扱われています」(松岡さん)
名盤は数万円から数十万円で取引されることも珍しくないという。