左翼と言えば天皇制に反対するのが普通だった時代は過去のもの、今では日本共産党も新天皇陛下即位にまつわる様々な議決に反対しなくなった。評論家の呉智英氏が、天才数学者の志村五郎による天皇制論について解説する。
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五月十日付朝日新聞は「陛下即位の賀詞議決 共産党も出席・賛成」と報じている。共産党は一九九〇年秋の新帝即位礼ではまだ賀詞に反対していたのに。ほんの一ミリずつの後退だから目立たないが、気づいたら百キロも逃走していたようなものだ。天皇制打倒を叫んで投獄されたり虐殺されたりした先人に、どう申しわけするのだろう。あるいは、あと五十キロも後退してから反転攻勢に出るつもりなのか。共産党以外の過激派や市民派も小規模な集会やデモをやっている程度だ。左翼の衰退は歴然たるものになっている。
私は天皇制擁護論者ではない。私の理想とする政治は哲人政治、すなわち「徳による階級制」(小島祐馬『中国思想史』)だからである。これは「世襲を防ぐ作用」を有する。徳が血統によって受け継がれるはずがないからだ。ましてや徳も知性も問われない民主主義的平等思想など、私が最も嫌悪するものである。
詳論は機会を改めて述べるとして、産経新聞の一面コラム「産経抄」(五月六日)で面白い本を知った。五月三日、八十九歳で亡くなった数学者志村五郎『鳥のように』というエッセイ集である。
「志村さんは、中国の古典文学に関する研究書など、数学とは関係のない原稿も数多く残している」という。調べてみると『中国説話文学とその背景』という準学術著作もある。その志村が「戦後の論壇に大きな影響力を持っていた政治学者」丸山真男の「歴史認識の誤りや教養の欠如を批判していた」とある。