ライフ

カレーと本の街・神田神保町に出現した角打ちに大満足の面々

近隣で働く人たちが毎夜集まり、賑やかな店内。中央が先代の今宮荘吉さん

「この街は、本屋さんとカレー屋さんが多いけれど、角打ちの店はここだけ。なんで1軒しかないんだよと最初は不満もあったけれど、逆に1軒しかないからいいんだと思う。ある人は見つけた時のうれしさが、ある人は最初に来た時の興奮が忘れられないというし。ここで過ごす時間の安心感は何事にも代えがたいんでね。今では、この店があることに大満足で、大感謝もしています」

 これは、東京・神田神保町にある『阿波屋(あわや)酒店』常連客の一致した意見だ。

 2003年1月、神保町再開発の第一弾として完成したタワービルの1階に移って来たのだが、もともと、この店は、3代目店主・今宮友行さん(49歳)の祖父が、明治40年に徳島の藍染会社を脱サラして東京・八丁堀で酒屋を始めたという、超老舗。徳島の藍染ということで阿波屋の屋号にしたというわけだ。

「その後、父親(荘吉さん・85歳)が昭和35年にこの近くに店を移して、昭和そのものの建物で酒屋を続けました。母親(登史子さん・故人)を看板女将に、角打ちも控えめにやっていたようです。このビルに移ってからは、角打ちをやっていなかったのですが、友人の助言もあって、角打ちを再開して4年目になります。でも、実は、なんでみんなこんなに楽しそうに飲んでいるのかというのが、まだよくわからない(笑い)。まあ、そんなお客さんを見ているのは楽しいですけどね」

 新しいビルだけに角打ちスペースは清潔感にあふれ、明るい。片面がガラス張りで、ブラインドを上げれば薫風に青葉を揺らす街路樹や、今日はあそこで飲もうとうれし顔のサラリーマンたちの行き交う姿などが眺められて、密室感もない。

「僕らふたりは、大学の同窓で70代。同僚や後輩から若く見えるとよく言われるんだけど、それはずっとこの店で角打ちしているせいです、絶対に。だって、ここで出会って飲むのが、いい客ばかり。それに、ここの若旦那は、いつも私ら目線と同じ高さにいて痒い所に手が届く人なんですよね」(建築業)

「30分でもいいんだ。ここで飲みながら会社での悩みなんかを話すと気分が晴れてくるのさ。そうすると家に帰った時に女房にいい笑顔を見せられるからね。この店は、相手になってくれる若旦那もいいし、おじいちゃん(先代・荘吉さん)も粋なんですよ」(50代、別の建設業)

つまみは乾き物中心だが、おにぎりなど総菜も置いてある

「私らは45歳、50歳、55歳。同じ職場の席が近いもん同士で、よく一緒に来るんです。酒は安いしうまい。つまみも、飲んべえの口に合う乾き物が豊富で、ちょっとした総菜も、ちゃんと小分けして出しくれる。わがままを言わせてもらえるなら、もっとテーブルを増やして角打ちスペースを広げてよってね。だって、仲間をもっと増やしたいんですよ」(建設業)

「会社からの線路を家への線路に切り替えるには最適な場所。本当に気持ちを弛緩させて1杯飲める所。ちょっと他所にはないですよ。8時を過ぎると一緒に飲んでくれたりする若旦那にも感謝です」(60代、一般企業)

「いつもね、ここの楽しい雰囲気に触れながら、大好きな焼酎ハイボールを1缶だけ飲もうと思って仲間と来るんですけどね。でも、甘みが少ないし辛口でさっぱりしてるじゃないですか。いつものことですけど、これを1杯だけで帰るっていうのは無理ですよ(笑い)」(40代、スポーツ用品メーカー)

「自分のなかでは、酒屋としては新参者だと思っています。だからといって、これからの時代、店舗を大きくするのは難しいでしょうし、考えていません。角打ちについても、もっともっと広めていこうというつもりもないんです。でも、マイナス思考ってことではなくて、基本的には、自分のできる範囲でやれることをどんどんやって行こうと決めているんです」(友行さん)

 つまり、平成の終盤に本の街、カレーの街で始まった明治創業の『阿波屋酒店』の角打ちは、令和の時代も楽しく続いていくことは間違いないということだ。

先代の荘吉さんが店に出ていることも多い。明るく元気な人気者だ

■『阿波屋酒店』
【住所】東京都千代田区神田神保町1-103東京パークタワープラザ109
【電話番号】03-3291-2510
【営業時間】17時~21時半
【定休日】土曜・日曜・祝日)。
焼酎ハイボール180円、ビール大びん460円。焼きあご340円、おにぎり(わかめ110円、高菜120円)、揚げ塩落花生120円。

トピックス

10月17日、東京・世田谷区の自宅で亡くなった西田敏行さん(時事通信フォト)
《俳優・西田敏行さん逝去》訃報を受けて一番に供花を届けた「共演女優」 近隣住民が見ていた生前の様子
NEWSポストセブン
現地時間の16日、ホテルから転落し亡くなったとみられている「ワンダイレクション」元メンバーのリアム・ペイン(31)。通報を受けて警察が駆けつけた際には、すでに蘇生の余地もない状態だったという(本人SNSより)
《目撃証言》「ワン・ダイレクション」ペインさんが急逝…「元婚約者」とトラブル抱え、目撃された”奇行”と部屋に残されていた”白い粉”
NEWSポストセブン
ワールドシリーズMVPも視野に
《世界一に突き進む大谷翔平》ワールドシリーズMVPに向けて揃う好条件「対戦相手に天敵タイプの投手がいない」、最大のライバルは“ドジャースの選手”か
週刊ポスト
「応援していただいている方が増えていることは感じています」
【支持者が拡大中!?】斎藤元彦・前兵庫県知事インタビュー「街頭で、若者からの支持を実感しています」
NEWSポストセブン
コンビ名はどうするのか(時事通信フォト)
「変えなくていいのか?」ジャングルポケット・斉藤慎二 残された2人を悩ます「コンビ名問題」
週刊ポスト
芸歴66年を迎えた石坂浩二
【石坂浩二ロングインタビュー】27才での大河ドラマ主演を振り返る「特別な苦労は感じなかった。楽しい思い出ばかりでした」
女性セブン
合法的な“落選運動”のやり方(イメージ。時事通信フォト)
【“裏金議員”の落とし方】公選法の対象外となる合法的な“落選運動”の注意点 「組織でやるのはNG」「根拠となる事実を提示」
週刊ポスト
10月17日、東京・世田谷区の自宅で亡くなった西田敏行さん
《逝去》西田敏行さん、杖と車椅子なしでは外出できなかった晩年 劇場版『ドクターX』現場が見せていた“最大限の配慮”
NEWSポストセブン
グラビアアイドルとしてデビューした瀬戸環奈さん(撮影/カノウリョウマ)
【SNSで話題の爆美女】1000年に一人の逸材・瀬戸環奈が明かす「グラビア挑戦を後押しした“友人の言葉”」
NEWSポストセブン
パリ五輪柔道女子金メダリストの角田夏実選手(時事通信フォト)
《ジャージめくって見せたバキバキ生腹筋》パリ五輪で柔道金・角田夏実、今後の去就「タレント活動の行方」「結婚願望」「3つの理想タイプ」
NEWSポストセブン
バレーボール女子日本代表監督の眞鍋政義氏が“火の鳥不倫”か(時事通信)
元女子バレー代表監督・眞鍋政義氏が騒動で初コメント「軽率な行動でご迷惑を…」 近く発表の新監督人事は
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 「石破茂は保守かエセか」大論争ほか
「週刊ポスト」本日発売! 「石破茂は保守かエセか」大論争ほか
NEWSポストセブン