映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優・伊東四朗が、朝の連続テレビ小説『おしん』で、ヒロインの父親役を演じたときについて語った言葉をお届けする。
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伊東四朗は一九八三年、爆発的な人気を博した朝の連続テレビ小説『おしん』で、ヒロインの父親役を演じている。
「いちばん驚いたのは、撮影に入る前に本が三十冊ぐらい来たことです。おかげで、一冊だと分からないことが分かりました。
ただ、これは大変なことだとも思いましたね。橋田壽賀子さんのセリフは長いですから。
ある時は十ページくらい喋る時があったんですよね。一話の十五分をほとんど一人で喋る。それで、当時は劇中で使うBGMをスタジオに流していました。その場で音付けもしていたんですね。『伊東さん、うまく計算して、音が終わる頃に戸から出ていってくれませんか』って。こりゃ、えらいことを頼まれたと思いましたけどね。だからメロディも覚えてやっていました。
それから、おしんをやる小林綾子ちゃんをぶつ場面があって。ぶたれてぶっ飛んでいくという。彼女はまだ子供だったから、ある程度本気でぶたないと飛んでいくのも嘘になると思いました。
その日は事前に綾子ちゃんを呼んで『今日、お父さんはほっぺたをバチーンとぶつけど、びっくりしないでね』と言って、ドアまで飛んでいくくらいぶったこともあります。
そういう、リアリズムのドラマだったんですよね」
近年では、大河ドラマ『平清盛』の白河法皇役を演じた際のタイトルロールで、一番上の格の役者のポジションである最後=トメにクレジットされるなど、大物として扱われることも多い。