東京都中央卸売市場で、2018年に廃棄処分になったのは水産物7944トン(魚腸骨除く)、青果1万2823トン。国内外から選別された魚が集結するはずの中央市場ですら、そうだ。年々、漁獲減が深刻化する日本の大きな矛盾である。そんな中、無価値の魚に価値を見出す“魚のアップサイクル”に尽力する人たちがいる。
命を無駄にしない──子供は魚を「釣って食べる」ことで、魚の価値を体で学ぶ。三浦半島でそんな現場に立ち会った。
◆人間は肉食の哺乳類。他の生き物を食べて生きる動物だから…
神奈川県三浦半島南端の町・三崎で、小さな宿「ベッド&ブレックファスト ichi」を営む愛称“ころすけ”こと成相修さん(35才)。「魚は釣って食べるのが日常」と言うころすけさんは、宿を拠点に、釣りやトレッキングなどの自然体験ツアーも主催している。
取材日はちょうど、磯釣りで釣った魚を宿で料理して食べるという「地魚を釣って食す」の開催日だった。
ころすけさんは岩場のポイントにまき餌をまき、魚をおびき寄せる。子供2人を含む5人の参加者はゴカイやオキアミを餌に、釣り糸を碧い海に落としていく。
「あっ、引いてる引いてる!」
一番乗りは小学生のKくん。目をまん丸にして緊張しながら釣り上げたのはウミタナゴ。雌の胎内で卵を孵化させて子を産む卵胎生の珍しい魚だが、近年は「水っぽくておいしくない」「雑魚」と釣り人に敬遠されがちだという。
「このウミタナゴはお腹に赤ちゃんがいるね。よし、ちょっとここに来てごらん」
ころすけさんはそう言って、釣り針をウミタナゴの口から外し、腹にはさみを入れた。そして、中から赤ちゃんタナゴをそっととり上げ始めた。
Kくんの目がいっそう丸くなった。瀕死の母魚の胎内から飛び出すピチピチの“命”。
「この子たちもね、あとでおいしくいただくよ」
ころすけさんの言葉に、神妙な面持ちでうなずくKくん。少年が、「生きるための必然」を学んだ瞬間だった。
※女性セブン2019年6月13日号