グラビア写真界の第一人者、渡辺達生氏(70)が“人生最期の写真を笑顔で撮ろう”とのコンセプトで立ち上げた『寿影』プロジェクト。渡辺氏は、自然な笑顔を引き出すべく、撮影する人に「一品」を持ってきてもらって、それにまつわるエピソードを聞きながら撮影する。
瀬古利彦(62)が持ってきたのは、長男と妻から贈られた手作りの「心の金メダル」。
15戦10勝と驚異の優勝率ながら、五輪に運がなかった瀬古氏。宝物は最後のマラソンとなった失意のソウル五輪後、家族から贈られた手作りの金メダルだ。今は消えてしまったが、“とっちゃん、ごくろうさま! 心から勇気と夢と愛をありがとう”のメッセージが記されていた。
「当時2歳の長男が私の首にかけてくれた。人知れず辛い涙も流したが、その瞬間はうれし涙で男泣き。家族はありがたいね」
とりわけ妻には感謝する。常に心の支えとなり、全てを捧げてくれた。だからこれからは自分が妻に歩み寄る番と、3年前から一緒に社交ダンスを習う。「ステップを覚えるから脳トレになり、70、80歳代でも矍鑠(かくしゃく)と踊る方たちを見ると、自分たちもそういうおじいちゃん、おばあちゃんになりたいと思う」
今年は妻が還暦。盛大なダンスパーティーを計画しているが、それ以外は東京五輪まっしぐら。さらに残りの人生は、マラソン大国日本の復興に力を注ぐ。
【プロフィール】せこ・としひこ/1956年、三重県生まれ。元陸上競技・マラソン選手。現役引退後は指導者となり、ヱスビー食品を経て、現在DeNAランニングクラブ総監督。2016年より日本陸上競技連盟のマラソン強化戦略プロジェクトリーダーに就任
◆撮影/渡辺達生、取材・文/スペースリーブ
◆小学館が運営する『サライ写真館』では、写真家・渡辺達生氏があなたを撮影します。詳細は公式サイトhttps://serai.jp/seraiphoto/まで。
※週刊ポスト2019年6月7日号