「徴用工問題」をめぐり日本と韓国の外交が危機に瀕している。日本側は6月に開かれるG20首脳会議前の解決を目指し、日韓請求権協定(1965年)に基づく仲裁委員会設置を要求したが韓国側は応じなかった。なぜ、韓国はこうも頑ななのか。近著に『韓国「反日フェイク」の病理学』がある韓国人ノンフィクションライター・崔碩栄氏は、歴史的事実の検証とは関係なく韓国社会に定着した「強制動員のイメージ」の影響を指摘する。
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日本統治時代に内地の日本企業で働いていた朝鮮人労働者が「慰謝料」の支払いを求めた裁判で、韓国大法院(最高裁)は被告である新日鉄住金に、戦時中雇用していた朝鮮人とその遺族に対し1人あたり1億ウォン(約1000万円)の賠償を命じた(2018年10月30日)。
大法院は韓国の国民情緒を全面に押し出した「理屈」を主張している。この判決は、1965年の日韓基本条約で規定された未払い賃金や、補償金等について支払いを命じるものではなく、「不法な植民地支配と直結した侵略戦争の遂行過程において起こった日本企業の反人道的な不法行為」に対する「慰謝料」であるというのだ。「不法な植民地支配」つまり、1910年の日韓併合が「不法」であるという韓国国内の常識を前提にしているのだ。
判決文を読んでみて私が強い違和感を覚えたのは次の二点だ。
一つは、不正確な用語使用。原告たちは徴用によって内地(日本)へ渡ったのではなく、全員が朝鮮で徴用が実施される以前に、募集に応じる形で内地に渡り働いた人たちだ。にもかかわらず、判決文には「強制徴用」という言葉が6回、「強制動員」という言葉が70回以上も登場する。「原告らのように募集または官斡旋という形で行われた強制動員」と原告らを強制動員犠牲者と断じたり、それを前提とした判決趣旨を述べる部分にも多く登場する。だが、募集と官斡旋に応じて内地に渡った就労活動まで「強制」とみなすことには、やはり違和感を覚える。
もう一つは、大法院が原告の一方的な証言をすべて事実と認定したという点だ。「提供された食事の量がものすごく少なかった」、「寄宿舎の舎監から殴られ、処罰を受けたりした」、「仕事に出ない人に仮病を使っていると蹴りを入れた」、「逃走したのが見つかって約7日の間、激しく殴られ、食事を与えられなかった」といった原告らの主張を大法院はそのまま引用しながら「反人道的不法行為」と評価した。果たしてこれらの主張に対し、客観的な検証が行われたのだろうか。被害者の主張をすべて疑ってかかるのも良くないとは思うが、だからといってまったく裏を取ることをせずにすべて認定するというのは「被害者中心主義」の誹りを免れないだろう。
新日鉄住金判決に続いて11月29日には、三菱重工に4億7000万ウォン(約4700万円)の賠償命令が言い渡された。戦時中、三菱重工で労働を強制されたと主張する韓国人の元朝鮮女子勤労挺身隊員の女性ら4人と遺族1人による裁判である。いわゆる、徴用工裁判は他にも係争中で、このような判決は今後も続くと予想される。そうなると今後大きな混乱が起きることは必至だ。