高評価が定まりつつある朝ドラ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が、脚本家の技巧について言及する。
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NHK連続テレビ小説『なつぞら』が絶好調。平均視聴率は22.1%(第8週まで)と、実に安定した走りっぷりを見せています。このドラマの何が牽引役となっているのでしょうか?
まず冒頭の2週間、子役時代のなつを演じた粟野咲莉の演技のうまさに、心をグッとつかまれた視聴者が続出しました。なつが広瀬すずになってからの北海道シーンでは、「祖父」泰樹(草刈正雄)となつとのやりとり、泰樹の人生経験から絞り出される深いセリフに感動した、涙した、といった称賛の声が聞かれました。
一方で吉沢亮、岡田将生、工藤阿須加……ズラリと揃った「イケメン祭り」が牽引役、という声も聞かれます。また、過去の朝ドラヒロインのオンパレード出演──松嶋菜々子、小林綾子、比嘉愛未、山口智子らがとっかえひっかえ出てくる面白さが際立っているから、と見る向きも。
そう、どれもが絶好調の要因に違いありません。ただ、私がこの朝ドラで最も注目している点は別のところにあります。一言でいえば、脚本家・大森寿美男の「入れ子芝居」のテクニックです。
ご存じのように入れ子とは一つの枠組の中にまた入れ物があって、またその中に別の入れ物がある……という仕掛け。『なつぞら』の一番大きな入れ物としては、まず「なつの成長物語」があります。戦争で両親を失った孤児の女の子が、北海道で新たな「家族」を得て、東京で実の兄と再会し自分の夢に向かって羽ばたいていく、という本筋を入れる器です。
その大きな物語の「器」に、また別の物語の「器」が入っている。例えば高校生のなつが所属する演劇部でお芝居『白蛇伝説』を上演。なつはヒロイン・ペチカを演じます。この芝居はただの劇中劇に留まらず、本筋である家族の話や泰樹と農協との確執といったことに絡んでいき、なつと泰樹との新たな関係へとつながる。その技巧的展開は見事でした。
あるいは、東京・新宿編では「ムーランルージュ新宿座」のきらびやかな舞台。クラブ「メランコリー」では歌手・煙カスミ(戸田恵子)にパッとスポットライトが当たりゴージャスな衣装に身を包んだカスミの華やかな声が響きわたる。そう、一瞬にして別世界が立ち現れるワクワク感がいい。
岸川亜矢美(山口智子)の踊り子シーンに咲太郎(岡田将生)のタップダンスと、他にも小さな舞台がいくつも用意されています。ロシアの玩具・マトリョーシカ人形はよく知られていますが、このあたりはいわば“マトリョーシカ的ドラマ仕掛け”と言ってもよいのかも。