視聴率低迷に苦しむNHK大河ドラマ『いだてん』だが、注目すべきポイントは実は多い。その演技で存在感を見せているのは、大竹しのぶ、寺島しのぶという“Wしのぶ”だ。時代劇研究家でコラムニストのペリー荻野さんが解説する。
* * *
大河ドラマ『いだてん』には、明治・大正期と昭和30年代、ふたつの時代をめまぐるしく行き来したり、語り担当の古今亭志ん生(ビートたけし、森山未來)が毎回出てくるなど、これまでの「大河ドラマ」とは一味違う特長がいろいろある。
しかし、『いだてん』が過去の大河ドラマと一番違うのは、登場人物がかなりのおっちょこちょいということである。そもそも序盤、「大日本体育協会」の嘉納治五郎(役所広司)はほとんどその場の勢いで「参加します!!」と日本のオリンピック初参加を決めてしまう。その嘉納先生に憧れる主人公・金栗四三(中村勘九郎)も、ストックホルム五輪に自腹で参加、8年後のアントワープ五輪の際には、結婚したこともひた隠しにし、勤務していた学校を勝手に辞めてしまう。
このほか、若き志ん生は浜松あたりでフラフラしてるし、四三の親友の美川(勝地涼)は浅草の遊女とワケありで四三の下宿に転がり込んでいる。おろおろ&うろうろ。戦国時代の物語だったら、全員、とっくに切腹か討ち取られていただろう。
そんな男たちのおろおろをどっしりした柱のごとく支えているのが、ふたりの「しのぶ」。四三の養母となった池部幾江(大竹しのぶ)と海外で女子体育を学んできた二階堂トクヨ(寺島しのぶ)である。
幾江は、地元熊本の名家・池部家を女手一つで取り仕切るゴッドマザー。いつも口をへの字にして、髪を結いあげ、和装で男たちににらみをきかせるその姿は、まるで「ひとり犬神家の一族」である。東京で「オリンピックバカ」生活を続ける四三の動向を知るたびに憤慨し、そのうっぷんを近所に住む四三の兄・実次(中村獅童)にぶつけにくる。
「さねつぐぅぅぅぅ!!」
地に轟くようなこんな声を大竹しのぶが持っていたとは。あまりの迫力に実次は即座に平謝り。幾江から「まだ、何も言っとらん!!」と叱られる始末。宮藤官九郎の筆は、こういう場面で冴え渡る。
大竹しのぶといえば、1999年の大河ドラマ『元禄繚乱』で、勘九郎の父、故・中村勘三郎演じる大石内蔵助の妻・りくだったことを思い出す。しっかり者の嫁りくは、「しっかりなされませ」とどこかぼんやりした内蔵助のふんどしをきりりと締めつけていた。当時から大河の隠れた柱だったのだ。
一方、寺島しのぶが演じるトクヨは軽やかなダンスなど先進的な女子体育教育を推進しつつ、アントワープで惨敗した日本選手団を糾弾。丸眼鏡が三角に見える勢いでしかりつける。まじめに怒れば怒るほど、なぜか面白い。『アルプスの少女ハイジ』のロッテンマイヤーさんか。
こうなると気になるのは、昭和篇で、Wしのぶを超える「柱」が出てくるかということだ。昭和の主人公・田畑政治(阿部サダヲ)も偉業を遺したとはいえ、現場ではかなりのおろおろ男。きりりと引き締める存在がいないと、ドラマ全体が落ち着かないだろう。
もしかして、またしのぶが別の役で出てくるとか? 先日の回で、森山未來が志ん生一家の三人(志ん生と息子の金原亭馬生、古今亭朝太)をひとりですべて演じたのには、びっくりしたが、それを考えれば、しのぶ再登板などは、どってことない! しのぶはやります。どちらのしのぶも。