アイドルを卒業したあと、彼女たちは何をしているのか。アイドル生活10年を経て“元地下アイドル”でライターとなった姫乃たまさんは、いま何をして、これから何をするのか。誰かに辞めさせられるのではなく自分の意思でアイドルを辞めたいと決意するに至った理由、そして、アイドルでなくなったことで見えてきたファンとの関係性について綴ります。
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元地下アイドルになりました。2009年4月30日から2019年4月30日まで、ぴったり10年間の地下アイドル生活でした。
地下アイドルの看板を下ろすと宣言したのは、去年の夏のことです。いろんな理由で肩書きを下ろさなければいけないと思っていて、活動内容の具体的な変更については「地下アイドル関連の事件が起きた時にマスコミ対応をしない」くらいしか考えていない見切り発車でした。
私自身、肩書きが無くなるだけで目に見える変化はないかもしれないと期待していなかったのですが、宣言後にメジャーデビューが決まり、現在も変わりゆく環境の中で心穏やかに過ごしています。
地下アイドルとしての私の10年間は、ライブハウスでの地下アイドル活動とマスメディアの仕事とのバランスを取るのに苦戦し続ける日々でした。
◆「地下アイドル残酷物語」を求められて
そもそも私がこの不思議な肩書きを名乗り始めたのは、活動を始めた当時、インディーズのアイドル文化がいまほど明文化されていなかったからです。自分をアイドルと名乗るのに違和感を覚えていたので、まだ確立していない「地下アイドル」の肩書きがちょうどよく感じられたのです。
地下アイドルを新しいジャンルとして捉えると、途端に自分や共演している女の子たちの荒削りな部分がむしろ魅力的に感じられて、まだ世間に知られていない地下アイドルの面白さを文章にしたいと思うようになりました。
しかし、自分自身の体験談や、地下アイドルとファンの人たちを取材して書いた文章が予想外の反響を呼んだことで、想像していなかった状況に巻きこまれていったのです。
AKB 48のヒットを受けてアイドルが社会的ブームになると、ライブハウスの中で活動している地下アイドルにもマスメディアの関心が集まりました。テレビや週刊誌に地下アイドルの露出が増える一方で、貧困や接客の過剰さなどを面白おかしく取り沙汰しただけの内容も増えていきます。
私は2015年に地下アイドルについてまとめた『潜行 地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー刊)を出版した時、書籍紹介と言われて受けた取材で、枕営業の有無とファンの危険性についてしか聞かれなかったことがありました。
たしかに私は地下アイドルの闇にも文章で触れてきましたが、それは彼女たちの魅力と輝きが前提にあってのことです。自分で文章を書くのはいいけれど、書籍紹介の名目で面白おかしく消費されるだけの記事に加担するのは不本意でした。結局、ネガティブなエピソードを話さなかったせいか、取材後は音沙汰なく、書籍が掲載されることもありませんでした。
しかしこの頃から、世間が求めているのは消費しやすい地下アイドル残酷物語で、書き手の愛情など関係ないのではという考えが頭をもたげるようになります。むしろ私の書いてきた文章が、闇の部分だけ切り取られて、そうした記事を生むきっかけになってしまったのではないかと取り返しのつかない気持ちになっていったのです。