老親のもの忘れが気になると、真っ先に疑うのは認知症だろう。今や認知症は大きな関心事で、情報も数多く発信されるようになった。
そんななかで見過ごされやすいのが“老人性うつ”。脳内の神経伝達物質が減ることで起こる脳の病気だ。
治療で治すことができるのに、認知症や老化と思われて治療に至らず、悪化するケースが多いと、長年、高齢者の精神科医療に携わる和田秀樹さんが警鐘を鳴らす。
◆認知症や老化に間違われやすい“うつ”の症状
「高齢者のうつでいちばん問題となるのは、必ずしも典型的な症状だけが、わかりやすく現れるわけではないことです」と、和田さん。
一般的にうつは、悲観的になり、意欲が低下し、不眠になって心身ともにつらくなる。
高齢者の場合、これら典型的な症状以外に、一見うつとは無関係のような症状が出ることも多いという。特に多いのは記憶力の低下。年齢的に認知症と間違われやすいのだ。
「認知症は高齢者に多い病気ですが、70代では、うつが認知症と同じくらいか、若干多いくらいの頻度です。
それなのに70代でもの忘れがあると、今時はみんな認知症だと思ってしまう。着替えや入浴を億劫がり、身なりにも気を使わなくなったりもするので、ますます認知症だと思い込むのです」
また食欲不振や不眠はどの年代のうつにも多い症状だが、高齢者の場合はうつと気づかれにくいという。いずれも高齢者には、年相応の症状としてよくありがちだからだ。
「痛みに敏感になり、腰痛や頭痛、息苦しいなどと訴えることもあります。整形外科や内科で検査を受けても、異常は見つからず、結局、見過ごされる。ところが、幸運にもうつが判明して治療薬をのむと、痛みなどがうそのように治るといったケースも少なくありません」
このほかに“イライラして多弁になる”“不安でソワソワする”「病気に違いない(心気妄想)、人に迷惑をかけている(罪業妄想)、お金がない(貧困妄想)」といった“非現実的な妄想”なども老人性うつには多いという。
◆うちは治療できる…が放置すれば認知症リスクも
脳に原因があり、症状もよく似たうつと認知症だが、根本的にはまったく違う病気だ。
「うつの主な原因は、セロトニンと呼ばれる脳内の神経伝達物質が減ること。悲しい出来事やストレスなど、心理的要因がきっかけになることは多いのですが、きっかけがなくても発症します」