今や認知症は大きな関心事で、情報も数多く発信されるようになった。そんななかで見過ごされやすいのが“老人性うつ”だ。認知症とうつの区別がつかず、放って置かれるケースが少なくない。うつの主な原因は、セロトニンと呼ばれる脳内の神経伝達物質が減ること。高齢者の精神科医療に携わる和田秀樹さんはこう言う。
「セロトニンは、高齢になるほど減る傾向にあります。また高齢者は、子供の独立、配偶者や親しい人との死別など、インパクトの強いストレスや悲しみと向き合う機会も多い。病気にまで至るか、どんな症状が際立つかは個人差もありますが、基本的に高齢者はうつになりやすいのです」
見過ごしやすいうつだが、いち早く見つけて治療につなげたい。老人性うつの気づき方を、間違えやすい認知症との比較で教わった。
「もの忘れでも意欲低下でも、認知症の場合は脳が少しずつ萎縮するので、症状の現れ方も少しずつ。いつの間にか現れて、始まった時期がはっきりしないことが多いものです。これに対し、うつは急にガクンとくる。セロトニンの量が減ってきて、ある時、限界点を超えて発症するため、始まりがわかりやすい。
また認知症とうつが合併することもあります。ダブルパンチなので症状は急で重いことが多いのですが、うつをきちんと治療すれば、症状は軽減できます。急な変化に気づいたら、ぜひ専門医を受診しましょう」(和田さん・以下同)
さらに和田さんは、セロトニンを維持してうつを予防する“肉食系”食生活をすすめる。
「まずは肉などのたんぱく質をしっかり摂ること。粗食に偏りたんぱく質が減ると、セロトニンの材料となるトリプトファンや、セロトニンを脳へ送るコレステロールが摂れません。 また日光を浴びることでもセロトニンが増えます。日中は外へ出て、活動的に過ごしましょう」
もう1つ大切なことは、“ものの考え方”を柔軟にすること。考え方で病気を防げるのかと疑問に思ったが、うつの治療の1つでもある効果的な方法だ。
「うつは“こうあるべき”と決めつける、かたくなな人がなりやすい傾向にあります。老いれば“自立すべき”“人に迷惑をかけてはいけない”という理想が叶わない状況が増えるわけで、こだわるとうつに陥りやすくなります。うまくいかなくても“まあいいか”と、自分を許せる柔軟性が大切になってきます」
これは子供世代にもいえることだ。親の衰えを認められず、介護うつになる人が少なくないという。
「今は“いつまでも若く”という風潮が強いけれど、老いを上手に受け入れられないとうつになりやすい。長い老後、70代くらいまでは老いに抗い、がんばってもよいけれど、80代近くになったら“まあいいか”という生き方にシフトチェンジを。子供世代もその時期をよく見極めて、応援したり、ゆるく寄り添ったりしましょう」
イラスト/やまなかゆうこ
※女性セブン2019年6月13日号