ペットフード協会発表の「平成30年全国犬猫飼育実態調査」によると、現在、猫の推定飼育頭数は約964万9000匹で、2年連続で犬を上回るなど、日本は今、猫ブームだ。しかしこうしたブーム、実は平安時代や江戸時代にも起こっていたのだという。猫ブームの歴史を振り返る。
最初の猫ブームは、今から約1200年前の平安時代に遡る。近年の研究結果から、猫は弥生時代には日本にいたことが判明しているが、平安時代ではまだまだ希少動物だった。そのため、物珍しさから、上流階級の間で猫を飼うのが流行ったという。
とはいえ、猫たちは今のように室内を自由に動き回れたわけではなく、ひもでつながれて飼われていたそうだ。
文献上に猫が頻繁に登場するのもこの頃から。中でも、第59代宇多天皇の『寛平御記』という日記には、愛猫の仕草やたたずまいなどが細かく記されていると歴史作家の桐野作人さんは言う。
「この日記は“暇をみつけたので、猫について綴った”という書き出しで始まります。毛の色は墨のような漆黒、体長は1尺5寸(約45cm)、高さは6寸(約18cm)と愛猫の外見的特徴や、丸まって寝ている姿が黒い玉に見えるなど、内容は現代の“猫ブログ”のよう。宇多天皇の猫への愛が溢れており、宮中で大切に飼われていた様子がうかがえます」(桐野さん・以下同)
江戸時代になるとペットとしての猫に転機が訪れる。1602年、それまでひもにつながれて飼われていた猫に「放し飼い令」が発布されたのだ。
「当時、京都や江戸では、ねずみの被害に悩まされていました。ねずみは食べ物だけでなく、米糊が使われていた障子やふすま、和傘までかじる厄介者。そんなねずみを退治するため、猫の放し飼いが奨励されたのです」
ねずみを捕まえる猫は重宝され、荷物を運ぶ駄馬1頭の値段が1両(約10万円)に対し、ねずみ捕りが上手な猫は5両と、高値で取引された。
江戸時代後期になると、歌舞伎の演目に猫が登場したり、歌川国芳をはじめ多くの浮世絵師が猫をモチーフにした作品を発表。さらに庶民の間でも、猫はねずみ捕りだけでなくペットとしても飼われるようになり、身近な存在に。
「住まいにも、猫と暮らすための工夫がみられるようになりました。例えば、障子の下の一角を張らずにめくれるようにしておき、猫が中と外を自由に出入りできるようにしていたようです」
長く人間と暮らしてきた猫。今は家族の一員として迎えられているのも当然のことなのかもしれない。
※女性セブン2019年6月13日号