「具合が悪くなったら薬を飲む」、これは日本人である私たちが小さい頃から刷り込まれてきた「常識」かもしれない。
実は、世界を見渡すと、すぐに薬に頼るというのはそう一般的なことではない。そのため、日本でしか使われていない薬も多く存在する事態となっている。なぜ副作用が強かったり効果があまり見込めなかったりする薬を、世界のなかで私たちだけがのみ続けているのだろうか。
薬剤師の宇多川久美子さんはその一因は、「日本人は薬をのむハードルが低い」ことにあると指摘する。
「テレビCMが作り出す明るいイメージが影響しているほか、医療費が安くなる『国民皆保険』という制度があるからでしょう。この制度はよい側面もありますが、一方で大して必要でもないのに薬を“カジュアルに”のんで頼ろうとする土壌ができていることも否定できません。医師から処方された薬がどんな薬なのかもよくわからずにのんでいる人も多いのです。それが証拠に、診察室で『じゃあお薬を出しておきますね』と言う医師に、薬の値段を尋ねる人なんていませんよね」(宇多川さん)
薬の値段や内容など気にしない日本の常識は“世界の非常識”でもある。海外の医療に詳しい医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが言う。
「アメリカでは、民間の健康保険に入っている人が多く、それに沿って使える薬も決まってきます。だから、自分の保険の内容ではどんな薬を使えるのかなどを自らチェックしなければならないのです」
日本で病院にかかる場合、診察を受けたあとにほぼ毎回処方箋が出て、薬局で薬を受け取ったら終わり、というのが基本の流れ。だが、海外では違うのだそうだ。
「アメリカでは薬が処方されずに診察が終わり、薬が必要なら自腹で買うことも多いのです。しかし、日本では『あの医者は薬も出してくれない』と“ヤブ医者”扱いをされることも。それゆえ、医師の側も仕方なく、害はないが効きもしないような薬を出してお茶を濁す、ということさえあるようです」(室井さん)
日本の薬がガラパゴス化してしまう一因は、もしかしたら私たちにあるのかもしれない。
※女性セブン2019年6月13日号