3つの願いを叶えてくれるランプの精、空飛ぶ魔法のじゅうたん、絢爛豪華な砂漠の中の宮殿──そんなイスラム世界のおとぎ話を実写化した映画『アラジン』が話題だ。ストーリーのベースになった『アラビアンナイト』の“秘密”を、歴史作家の島崎晋氏が解き明かす。
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6月7日に公開されたばかりの実写版ディズニー映画『アラジン』。日本では「アラジンと魔法のランプ」の名で知られる作品で、世界中で愛されている『アラビアンナイト(千一夜物語)』のなかでも、「アリババと40人の盗賊」「シンドバッドの冒険」と並び、特に有名な話を題材にしている。ディズニーによるアニメ映画版は1992年に公開されて大ヒットした。日本でも劇団四季によるミュージカル版が2015年から公演を続けており、人気の高さがうかがえる。
主な登場人物は、実直な青年アラジンと好奇心旺盛な王女ジャスミン、彼女の父親でアグラバー王国の国王を務めるサルタン、邪悪な大臣ジャファー、ランプの魔人ジーニーといった面々。実写版では個性派黒人俳優のウィル・スミスが、ランプの持ち主の願い(願いを増やす、誰かに自分を好きにさせる、死者を蘇らせること以外)を何でも3つ叶えてくれるという要の役柄を演じている。
『アラビアンナイト』は中東で成立した説話集だけに、中東やイスラム世界の事情を巧みに表わしており、それは登場人物の名前からもうかがうことができる。
まずはランプの魔人ジーニー。これはイスラム教の誕生以前から知られていた砂漠の精霊ジンに由来している。その住処は砂漠に限らず、人間界に紛れていることもあり、人間に幸福をもたらす善良なジンと、シャイターン(サタン=悪魔)と同一視される悪いジンもいる。だから精霊と訳されることもあれば、魔人と訳されることもあるのだ。
『アラジン』の主人公はランプの魔人ジーニーではなく、青年アラジンだが、彼の名前はアラブ世界に多いアラーウッディーンの省略形。西洋人にはアラーウッディーンという発音はしにくいので、言いやすいアラジンが定着したのだろう。アラジンがジーニーの力を借りて王女ジャスミンと結ばれ、王国を継ぐというのが大まかな筋である。