昨年映画化もされたベストセラー『終わった人』(講談社)では定年後のサラリーマンとその妻の生き様をユーモラスかつ辛辣に描いた脚本家の内館牧子さん(70才)が、続いて著したのは『すぐ死ぬんだから』(講談社)。70代後半の女性を主人公にした最新作は、死や老いを向こうに見据え、人生100年時代をどのように生き切るかを問うている。先日刊行した『70歳のたしなみ』(小学館)で「70代は人生の黄金時代」と提唱し、高齢期に持つべきたしなみを綴った昭和女子大学理事長・総長の坂東眞理子さん(72才)と初対談。高齢期の生き方について語り合った。
◆70歳。大切なのは「自分を肯定する」こと
内館:昨年9月に70歳になりましたが、高校時代や大学時代には自分がまさか70になる日がくるなんて想像できませんでしたね。そりゃあ、元気に生きていれば70、80になるものですが、じゃあ、NHK大河ドラマ(『毛利元就』)を書いていた50手前にどうだったかというと、やっぱり70は現実味のない遠い年齢でね。それがいざ古稀になってみると、なぜだかフッと「60代とは全然違う」と感じてしまったんです。前日まで69だった自分と70になった自分は何が変わったわけではないのに、私自身が「70はおばあさんね」と、年齢を意識してしまって(笑い)。坂東さんは70を迎えられた時、いかがでしたか?
坂東:私は2年前に古稀を迎えて、当時は記事などで70歳と紹介されるたびに自分に「年寄り」のレッテルを貼られたように思い、自覚症状もないまま気持ちが落ち込んでいました。でもこうして2年ぐらい経つと「なってしまったものはしょうがないか」と気に留めなくなります(笑い)。とはいえ、やっぱり女性にとって“大台”に乗る時はショックで嫌なものですよね。振り返れば30の大台に乗る時にも、「これで私の青春はおしまいだ!」なんて絶望して、落ち込んでいましたっけ。
内館:そうそう、30の大台も落ち込みました。私たちの時代は「女の子は2~3年働いたら永久就職」という風潮で若いうちに結婚しなくちゃという焦りもあって、30代はもう若くないという意識が強かったんでしょうね。「あぁ、30になっちゃった。まだ20代と言えた29とは明らかに違うな」と思っていましたもの。
では70の大台はなぜショックなのかと考えると、65で前期高齢者と呼ばれるようになって、いよいよ高齢者に突入する意識が高まったように思います。70なんてすごく年寄りだと感じていたので、とうとう自分もその年齢になったという落胆もある。仕事にしろ、70の私がいいと言えば若い人は逆らえないでしょうし、自分も若い頃にはそうでしたから。
坂東:それはそうですね。70代といえば、内館さんのベストセラー小説『終わった人』のさらに先のステージで、最新刊の『すぐ死ぬんだから』の世代ですよね。
内館:どちらもタイトルだけ聞くと60代、70代はそんな世代なのかという衝撃がありますよね。『終わった人』にしても、編集者に告げたらのけぞってました(笑い)。
坂東:強烈ですものね。
内館:テレビの世界で鍛えられているとやっぱり、タイトルって大きいんです。かつてドラマで『都合のいい女』(1993年)や『週末婚』(1999年)の脚本を書きましたが、今をもって一般名詞として使われていて、ありがたいなと思います。
坂東:私も『70歳のたしなみ』の中で、「終わった人」を一般名詞として使わせていただきましたよ。