映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、タレント・女優の浅田美代子が、テレビドラマでデビューし、演出の久世光彦と共演者の樹木希林にいつも“金魚のフンみたい”にくっついていた時期について語った言葉をお届けする。
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浅田美代子は一九七三年、久世光彦演出のテレビドラマ『時間ですよ』(TBS)でデビュー、舞台となる銭湯のお手伝いさん役を演じた。この時、共演者に樹木希林がいた。
「突然スカウトされたんですよね。あまり学校も好きじゃなかったから、こっちの方がいいかな、くらいの軽い気持ちでした。
『時間ですよ』で久世さんと希林さんとお会いして、気づいたらいつも金魚のフンみたいにくっついていましたね。
最初は久世さんから三十回くらいNGを出されました。初めて『松の湯』に着いて看板を見て『松の湯──』というだけなんですが、『違う!』と。『地図を見ながらやっと来れた安堵感と、ここで働く不安感。その全部が混じっている『松の湯──』なんだ!』って言われて。
こっちからすると『エーっ!わかんない! どうすればいいの!』でした。それで何度やっても『違う!』『それも違う!』。最後、訳わかんないから『どうでもいいや』っていう感じでやったのがオーケーになりました。
その前、役に決まった時、演技指導をするからと久世さんに呼び出されたんですよ。セリフを言わされるのかと思っていたら『お手伝いさんなんだから、雑巾がけがちゃんとできるように』って、やたら雑巾がけばかりやらされました。セリフなんか全然やらなくて。
それから、お風呂屋さんなので目の前に裸の人がいっぱいで、恥ずかしくて目を背けていたら、『店員なんだから、背けちゃダメなのよ』と希林さんに注意されたのを覚えています」