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阪急電鉄中吊り炎上騒動は「私鉄ナンバーワン給与」の産物か

阪急電鉄の社員の給与は大手私鉄トップだった

 振り返ってみればなぜこんな事態が起こったのか、不思議に見えることはままあるが、今回も起きてしまった。阪急電鉄の炎上騒動。コラムニストのオバタカズユキ氏が指摘する。

 * * *
 金融庁の金融審議会が「夫婦が95歳まで生きるには2000万円を蓄える必要がある」といった旨を報告書に記載した。これに立憲民主党の辻元国対委員長が「100年安心詐欺だ」と批判するなど、野党が次の参議院選挙での最大の争点化を示唆。この状況に、自民党の二階幹事長が「誤解を与える」として、金融庁に強く抗議し、金融庁VS自民党という意外な対立図式が浮かび上がった。

 肝心の国民は、「なんにせよ、やっぱり老後は年金頼みで生きていけないのね」と将来の不安を今更ながら募らせていた。そして、それとほぼ同じ頃、以下の文言が並ぶ電車中吊り広告がネット上で大炎上した。

〈毎月50万円もらって毎日生きがいのない生活を送るか、30万円だけど仕事に行くのが楽しみで仕方がないという生活と、どっちがいいか。 研究機関研究者/80代〉

 これは、阪急電鉄が神戸線など3線で各1編成の車両を『はたらく言葉たち』という書籍から抜粋したメッセージで埋めた広告ジャック企画の一例だ。『はたらく言葉たち』は、阪急電鉄と共にこの企画を進めたパラドックスという企業ブランディングを手がける会社のメンバーが、「日本中のはたらく人々」を取材をした内容から、感銘を受けた言葉を厳選して収録したシリーズ書籍。パラドックス社のホームページは、大炎上の影響か、このコラムの執筆時点、閲覧不能となっている。

 実在する人物であるらしい「研究機関研究者/80代」の言葉に、ネット民たちは何を感じ、どんな言葉をぶつけたのか。この広告をツイッターで取り上げてバズったケースはいくつかあるようだが、筆者が見渡した限り、もっとも代表的な意見だと思われたのは、1万件以上のリツイートがされた「あさつゆ」さんというアカウントの6月10日のツイートだ。

〈手取り30万が低所得扱いされてる事に衝撃を受けたと同時に、こんな考えの人達の年金に余裕で手取り30万以下の若者の金が吸い取られてるのかと思うとやるせなさが凄い〉

「あさつゆ」は、シングル2児ママの「あさぎ」さんと、同棲後妊活予定という「つゆ」さんとの共同アカウントなのだが、上記ツイート内容はいまの若い庶民層の感覚としてごく一般的で自然なものだと思う。月に30万円の収入を得るのは、そんなに簡単なことじゃないし、その金額を安月給の例として使う「研究機関研究者/80代」の感覚には、「バブル時代で時間が止まってるのか!?」と問い質したくなるようなズレがある。

「あさつゆ」さんのツイートに対して飛び交ったリプライは、たとえば以下のような言葉だ。

〈総支給でも月に30なんか超えた事ないです…〉
〈月手取り20万弱で毎日生き甲斐のない仕事やってる人はどうすりゃいいんでしょうね〉
〈夜勤込みで手取り20万いかないし、仕事に楽しみがあるわけでもない私はどうしろと言うのでしょうか?と言いたくなりました〉
〈氷河期世代の私、流石にこれは無いと思いますね。今迄、最高でもトラック運転手時代の22万しか貰えなかったのに。今は派遣の仕事で週2日休みで16万程度。この作者は上級国民ですかね…〉

〈介護職の人は手取り20万以上いったらすごいって言われる世界ですよ! 年収200万ですけど? そういう業界の人たちはどうすれば?夜勤して日勤して排泄処理して入浴介助して 亡くなればその後の処置もして それでも年収200万の業界の人たちはどうすれば?〉

 こうした反応をした人たちは、日本全体から見たら低所得者層のうちに入るのかもしれない。しかし、その層は確実にぶ厚く存在する。けっしてマイノリティではなく、ひとつのボリューム層である。

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