【書評】『特捜は「巨悪」を捕らえたか 地検特捜部長の極秘メモ』/宗像紀夫・著/ワック株式会社/1500円+税
【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)
ロッキード事件、リクルート事件など戦後を代表する疑獄事件を捜査してきた元東京地検特捜部長の回想録。事件を掘り起こす独自の捜査手法や、国家権力の暴走を監視しなければならないプレッシャー、さらには決定的供述を引き出した容疑者に自殺された悔恨とトラウマまで、驚くほど赤裸々に綴っている。なぜなのか──。
私は一度だけ、現役時代の著者を取材で訪ねたことがある。広い検事正室で、質問には何も答えずじっと私を見ながら、ようやく開いた重い口から出たのは、ひとつの忠告だった。「(君の身を守るため)そのことは書くな。書いたら名誉棄損で訴えられ負ける。ぜったい、書くなよ」。
リクルート事件で取り調べを受けた江副浩正氏も、「洒落たユーモアを言う人で、フランクで誠実、人柄がとてもいい」と評している。厳しい取り調べにあっても、憎めない人の好さを感じたのだろう。
検事は供述を引き出すことで事件を解決する一方、落ちてしまった容疑者には、逃げ切ろうとする巨悪や所属する組織などからの厳しい責めが待っている。