50代で平均2本以上、60代で4本以上、70代で8本以上。日本人はそれだけ歯を失っている。虫歯や歯周病が進んで、歯を抜かなくてはならない──そう宣告された時、患者には複数の「選択肢」があるが、選んだ先の“長い道程”を詳しく説明する歯医者は少ない。それぞれの治療に必要な「費用」「期間」「その後のメンテナンス」などは大きく異なる。メリットとデメリットを正しく理解するために──『やってはいけない歯科治療』著者の岩澤倫彦氏がレポートする。
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抜歯後の治療を選ぶ上では、費用や期間などの全体像を先に知っておいたほうがいい。たとえば、保険診療なら最も安い「部分入れ歯」にしても、長期的に考えると、高くつく場合もある。
とりわけ費用も高額で、治療期間も長くなるのが「インプラント」。治療期間は半年以上に及び、手術後も定期的なメンテナンスが生涯続くのだ。
治療全体の流れを理解しておかないと、後になって“まだ治療費がかかるのか”と後悔することになりかねない。
最近の歯科業界は、治療別に高度化と専門性が高まっている。だから、かかりつけの歯科医が、すべて治療法に網羅的に詳しいとは限らない。患者があらかじめ、費用も期間も理解した上で治療法を選べば、“こんなはずではなかった”と、歯科医との信頼関係がなくなることも避けられる。
注意してほしいのは、「費用が安い」「治療期間が短い」といった目先の理由で抜歯後の治療を選ばないことだ。
たとえば、設計が悪いブリッジを装着すると、咬みあわせの力が両隣の歯に過重な負担をかける。その結果、さらに両隣の2本の歯を失う可能性が高まるのだ。
※週刊ポスト2019年6月28日号