2018年、7月。主演映画『凪待ち』のロケ現場に現れた香取慎吾(42才)は色褪せたTシャツにヨレヨレのジャンパー、足もとは薄汚れた運動靴といういで立ち。オシャレな“慎吾チャン”とはまるで別人だ。
「派手な私服で現場に来て、地味な衣装に着替える、とスタッフから言われてますね(笑い)」
無精ひげの顔は、完全なノーメイク。というのも、監督から「この作品ではメイクをしないでほしい」という指示があったからだという。
ノーメイクで映画に出演するのも初めてだが、“どうしようもないろくでなし”という役柄を演じるのもまた、初めて。
「逃げる男なんですよ、郁男は。自分からも、人からも、逃げる。逃げた先にあるかもしれない光からも、逃げる。逃げて、堕ちていく」
香取自身は、逃げることがあるのか?
「そうだなぁ……。人生って、両方のタイミングがありますよね。“行こう!”と思う時と、“ダメだ”と思う時が。これまでのぼくは“行こう!”が多かった気がするけど、今回の役を通して“ダメだ”もけっこうあるな、と。自分の中のそういう部分が引っ張り出された感じがしましたね」
素顔のままで挑んだ、ろくでなし。まだ誰にも見せていなかった香取慎吾が、ここにいる。
白石監督の熱烈なオファーを受けての初タッグ。「なぜぼくに?って聞いたんですけど、答えはなく…(笑い)」(香取)。後日監督は「リアリティーがある香取が見たかった」と明かした。
この日の外気温は約35℃。ロケは室内で行われたが、本番ではエアコンを止めるので、あっという間に暑くなる。熱演でほてった体を、次のシーンにそなえてクールダウン。
脚本の加藤正人氏は「これまでの香取慎吾という俳優とは全然違うキャラクターを描いてみたいと思った」と言う。
「ワンシーン、ワンカットごとに、思うことがたくさんある。その時の心情について話したいことが山のようにある。しかも、それをすごく楽しめています」──そう香取は語った。
【映画情報】
『凪待ち』●毎日を無為に過ごしていた郁男(香取)は、恋人とその娘とともに宮城・石巻で再出発しようとするが…。香取が“どうしようもないろくでなし”を演じるヒューマンサスペンス。
・6月28日TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
・監督:白石和彌
・出演:香取慎吾、恒松祐里、リリー・フランキーほか
撮影/田中智久
※女性セブン2019年6月27日号