今、ウケる顔は「小さい顔」ばかりではないようだ。注目は「四角顔」だという。その理由についてコラムニストで時代劇研究家のペリー荻野さんが解説する。
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世の中、ずっと「小顔」ブーム。ドラマでもモデルや美形オーディション出身の若手俳優が増えるにつれ、「八頭身」は珍しくなくなり、「九頭身美人」も登場している。
しかし!よく見れば、その流れに待ったをかけた(とは本人は思ってないと思うけど)「四角顔」の勢いも感じるのである。
その筆頭が、佐藤二朗だ。くせ者の脇役として多彩な映画、ドラマに出演を重ねた佐藤の存在感が一段と輝いたのは『勇者ヨシヒコ』シリーズの仏役だ。燦然と後光を浴びながら、天上から出ては「仏もね、ホトホト困ってるんだよ」などとテキトーなことを言ってる仏様。例のぽつぽつヘア(螺髪=らほつ)をパカッと被って画面上部を占めた二朗の顔は、でかい!!そして四角い!! これがもしも今どきの小顔仏だったら、こんなに面白くなかっただろう。仏像のごとくどっしりと大きい四角顔ならではのインパクト。それが大事。
その仏パワー(かどうかは不明)で、いまや二朗は、フジテレビ『超逆境クイズバトル!!99人の壁』堂々の司会者である。ここでも「立ち上がれ25人の壁!」などと声を上げ、出場者、来場者を鼓舞する二朗。ひらひらした小顔細め男子ではとてもできない司会ぶりを見せている。
そして、今シーズンもうひとりの「四角顔」といえば、BSプレミアム『大富豪同心』の中村隼人である。歌舞伎舞台では『ワンピース』『NARUTO』など、斬新な作品にも次々出演。写真集も発売された若手の注目俳優である。その隼人ドラマ初主演作がこのドラマなのだ。
隼人演じる卯之吉は江戸一番の大富豪・両替屋三国屋徳右衛門(竜雷太)の孫。同心の身分もお金で買ってもらったじいじからのプレゼントというのんきな若旦那なのである。超高価な刀の盗難事件では「同じ刀がもう一本あるといいね」と即調達、
殺人事件の捜査のために事件現場の吉原の店をポケットマネーで「ひと月貸し切りにしたよ」なんてことを平然と言ってのける卯之助。医師の稽古もしたことがあり、血のにおいから被害者の持病を推察したり、溺死でないことを調べ上げたりと「科捜研」みたいなこともしてのける。なかなかできるやつかと思ったら、そこは温室育ちの若旦那。走ればすぐに「待っておくれ」と息切れ、「お化けが怖いんだよ」と暗闇でもおどおど。いざ、大捕物になると、敵の刃が怖くて、なんと立ったまま気絶してしまう。おいおい。
ポイントは、この気絶顔。立ったままフリーズした卯之吉の顔を見た襲撃犯は「あまりにスキがあり過ぎて打ち込めない」と、戦わずして敗けを認め、目撃者も「さすが、強敵を前にしても一歩も退かない!!」などと驚き、なぜか最強の剣豪同心として評判になってしまうのだ。
隼人はくっきりした四角顔。細めのちょんまげで余計にくっきり表情が見えるところも重要だ。実は「くっきり表情が見える」のは、時代劇主役には欠かせない要素なのである。悪に怒り、弱者には優しさを見せる。この表情がくっきり出てなきゃ。
久しぶりに出てきたインパクト抜群の四角フェイス。こじんまりしがちなテレビをもっともっと盛り上げてほしい。