国内

がんセンター名誉総長、がんで妻を亡くした悲しみと後悔

がん治療の権威、垣添忠生さん(撮影/矢口和也)

 垣添忠生さん(78才)は長年にわたって日本のがん政策をリードしてきたがん治療の権威だ。だからこそ、「人はがんを克服できない。共生を目指すべきだ」という言葉に、特別な重みがある。上皇陛下のがん治療にあたった。自身も大腸がんや腎臓がんを患った。最愛の妻をがんで亡くした。がんと向かい合い続けた“求道者”が語る「がんと生きる方法」――。

「毎朝5時に起きて、1時間スクワットなどトレーニングをした後、朝食を作って食べています。妻を看取ってから10年以上、こんな生活を続けています」

 穏やかな表情を浮かべながら朝の日課について語る垣添さんは、その人生のほとんどを「がん治療」に捧げてきた。

 1967年に東京大学医学部を卒業し、泌尿器科医として勤務しながら、がんの基礎研究にも携わる。1975年からは国立がんセンター(現・国立がん研究センター)に勤務し、中央病院長や総長を歴任し、現在は名誉総長を務める。2003年には上皇陛下の前立腺がんの治療にも携わった。

「私自身も大腸がんと腎臓がんにかかった経験がありますし、妻は肺がんで亡くなりました。その時は『がんに負けた』という無力感と最愛の人を失った悲しみで立ち直れないほどでした。今や2人に1人ががんにかかる時代です。がんにまつわる問題は、他人事ではありません」(垣添さん・以下同)

 垣添さんの最愛の妻・昭子さんがかかったのは、発育が早く、転移しやすいといわれる肺の小細胞がんだった。

◆家はこうでなくっちゃ

「妻はその前にも甲状腺がんと肺の腺がんを患ったことがありましたが、どちらも治りました。だから最初に小細胞がんが見つかった時、妻は『今度もあなたが治してくれるんでしょ?』と言ったんです」

 ふたりが出会ったのは、垣添さんが26才の時。まだ研修医だった。昭子さんは垣添さんがアルバイトをする病院に関節炎の治療のために通っており、担当医として言葉を交わすうちに惹かれ合っていった。

「聡明かつ闊達な女性で、話していてこの上なく楽しかった。出会ってから1か月もしないうちに『この人と結婚したい』と強く思うようになりました」

 しかし周囲は大反対。なぜなら、昭子さんは垣添さんよりも12才年上で、既婚者だったからだ。

「すでに別居中でしたが、まだ籍は入っている状態でした。両親や親族の反対を押し切って、駆け落ちのような形で始まった結婚生活でした」

 その日から昭子さんは医師として朝から晩まで働く垣添さんを支え続けてきた。

「妻はどんな時でも、私が研究者として、医師として仕事に打ち込み、責任を全うできるよう、全力で助けてくれました。出張や泊まり込みで家を空けることも多かった私が、やっと定年を迎え、これからは時間にゆとりができるからふたりで旅行をしたり絵を描いたりして過ごそう、と語り合っている時に発覚したのが3度目のがんだったのです」

 2007年2月に小細胞肺がんと診断され、抗がん剤や放射線による治療を受けたが、同年10月の検査で転移していることがわかった。

「治る見込みのない厳しい状況であることを、妻は冷静に受け止めていました。その後も、もう一度抗がん剤治療を受けましたが、残された時間が少ないことは本人がいちばんよくわかっていたように思います。

 回復の兆しがないうえに副作用もきつく、『治療を受けているのはあなたのため』と言われたこともありました。がんの専門医である私の立場をおもんぱかった発言だったのでしょう。もう少し早く、抗がん剤の治療をやめてあげればよかったという後悔は、今でも残っています」

関連記事

トピックス

田村瑠奈被告(右)と父の修被告
「ハイターで指紋は消せる?」田村瑠奈被告(30)の父が公判で語った「漂白剤の使い道」【ススキノ首切断事件裁判】
週刊ポスト
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
暴力団幹部たちが熱心に取り組む若見えの工夫 ネイルサロンに通い、にんにく注射も 「プラセンタ注射はみんな打ってる」
NEWSポストセブン
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン