単行本が発売するやたちまち話題沸騰中の漫画『トラとミケ いとしい日々』。動物写真家の岩合光昭さんが初監督を務めた映画『ねことじいちゃん』の作者、ねこまきさんが名古屋を舞台に描いた「猫だらけ」の最新シリーズだ。過日、『孤独のグルメ』原作者の久住昌之さんが「ほんまにおもろい」「猫になって、この町に住みたい」と大絶賛したこの作品を、日々たくさんの本に接している書店員さんはどう読んだのか。愛知県に本社のある地元の書店・精文館書店の川田智美さんのスペシャル書評。
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ぷくぷくした丸顔、味わいのある表情、ぽってりした腰回り。ねこまきさんの猫には、1匹1匹に、その子だけの愛らしさが詰まっている。映画化された『ねことじいちゃん』や、アニメ化された『まめねこ』をきっかけに、メロメロになった方も多いだろう。このたびの新刊『トラとミケ』は、これまでの作品とは一味違った、でもねこまきさんらしい、人情(猫情?)味あふれる物語だ。
主人公は、亡き両親の跡を継いで「どて煮屋」を営む、トラさん・ミケさん姉妹。毎日様々な常連さんがやってきては、美味しい料理やお酒、そして名古屋弁全開の賑やかな会話を楽しんでいる。
まず惹かれたのが、彼らが繰り広げる思い出話。初めての海水浴や、家族総出の年越し準備などのエピソード、さらにはかき氷棒や練り飴といった懐かしいおやつの登場につられて、自分の子どもの頃のことがよみがえってくる。
長らく忘れていた出来事も、五感や感情まで思い出せるのには驚いた。子どもや孫たちと一緒にこの本を読んでみたら、自分にとっての「懐かしい」ものと、誰かにとっての「新しい」ものがつながっていくかもしれない、などと想像すると、ハッピーな気持ちになる。「懐かしい」と感じる対象は、世代によって違うだろうけれど、「懐かしい」という気持ちはきっと同じだ。
そんな楽しい思い出の一方で、トラさんの叶わなかった恋の話や、常連客で編集者の上田さんの家族の話には、胸を打たれた。「長く生きてるといろいろあるねえ」というモノローグに、深く頷く。ほんとうに、そうだよねえ。生きていれば、悲しいことも、愉快でないことも、色々ある。年を重ねて、うまくやりすごせるようになってきたと思うと、反動のように落ち込む日もあったりして。
そんな日常をごまかすことなく、しかも軽やかに、楽しく読ませてくれるのは、ねこまきさんのかわいい猫キャラクターと、独特のテンポのおかげだ。まるで、昭和の名作映画のような余韻を味わったが、これってすごいことなんじゃないかと思う。