特殊詐欺グループの活動が、ターゲットは日本国内であるにも関わらず国際化したことは、先日のタイでのアジト摘発と逮捕、強制送還劇が報じられて以降、多くの人が知るところだろう。強制送還された日本人たちは「かけ子」をしていたと報じられているが、実は電話をかけない「かけ子」という新しい形態のグループ構成員だったことが分かった。なぜ電話をかけない「かけ子」が誕生したのか、ライターの森鷹久氏がレポートする。
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タイのリゾート地・パタヤから、日本国内向けに「振り込め詐欺」電話を行なっていたとして、日本人15人が逮捕された事件。
先月末に容疑者全員の身柄が日本に移され、警視庁が連日の取り調べを進めているが、筆者の取材で、いわゆる振り込め詐欺やオレオレ詐欺など「特殊詐欺」を取り巻く環境の変化が見えてきた。
「訴訟だなんだとハガキを送りつけるだけの方法は、劇場型に進化し続ける日本国内の特殊詐欺事情と比較してあまりに杜撰な方法でした。しかし、これが老人だけを狙ったものではなく、さらに海外の反社会的組織が先導して行なっていたものだとすれば、妙に腑に落ちる部分はあります」
こう打ち明けるのは、警視庁の捜査関係者。「消費料金に関する訴訟最終通告」などと記された架空請求ハガキは、一昨年ごろから目立って全国各地に送り続けられており、メディアなどでも連日報道され続けた。法務省管轄の行政機関が送り主であるように偽装はしてあるものの、そもそも機関自体が存在せず、記された住所もデタラメであることは少し調べれば容易にわかる。一方的な送りつけによるこんな雑な手法で、いったいどれほどの人が騙され、詐欺の収益になるというのか、ということである。
筆者は以前、こうした古典的な「送りつけ型」架空請求詐欺について関係者に取材したところ「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」とか「新たなカモリストの作成に使用される」などの証言を得ていたが、今回取材で判明したのは、全く別の理由が存在しているという事実だ。
「去年頃までは、(詐欺電話の)かけ子拠点が国内にあることは普通でした。しかし、警察当局の猛烈な捜査にあい、拠点を地方のホテルやキャンピングカーにするジプシー型も増えてきた。ところが、それでも逮捕されるというので、かけ子の拠点は海外に移されました。海外であれば日本警察も迂闊に手出しはできない。ただ、他人のシマでのゴト(仕事)ですから、現地マフィアなどとの連携は欠かせない」
九州在住の元暴力団関係者がこう話すように、特殊詐欺は自然と「国際化」を強いられた。その結果、日本国内では当たり前だった「高齢者を狙う」手法も、自ずと変化していったというのだ。
「海外にいるかけ子と、日本国内にいる受け子の連携は難しい。高収入の老人宅を狙い撃ちにする、といった丁寧な仕事もできないとなれば、とにかく無差別的に架空請求ハガキを出しまくったり、ワンクリック詐欺のようなサイトへ誘導するメールを送り続けるほうが実行しやすい。タイで逮捕された15人だけでなく、東南アジアなどの国外で特殊詐欺に関わる日本人の多くは、詐欺メールや詐欺ハガキに引っかかった人からの電話に応じるという、いわば”反響営業”をしていたのです」