香港で生まれ、その後、1997年の香港の中国返還を前にカナダ国籍を取得しながら、仕事の関係で香港に生活している香港在住者が1996年以来最高の30万人に達した。そうした中、直近の5年間で、約8000人のカナダ国籍の香港居住者がカナダに生活の拠点を移していることがカナダの国勢調査結果から明らかになった。
これは2014年の民主化を要求した雨傘運動や、最近の「逃亡犯引き渡し条例」の改正案をめぐる大規模な抗議行動などで、中国の脅威が香港に直接迫っていることを危惧する動きとみられる。香港の英字紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」が報じた。
香港人のカナダ国籍取得者は、おもにカナダのブリティッシュ・コロンビア州のバンクーバー市やリッチモンド市に居を構えている。
ブリティシュ・コロンビア大学で香港の移民問題を研究しているダニエル・ヒルバート教授は「香港の人々のカナダ移民は1990年代に最初のピークを迎えた。その人たちは大半が40~45歳の働き盛りの年代だった。カナダは物価も安く自然も豊かで、生活そのものは穏やかだったが、仕事のチャンスには恵まれないことから、移住した人々の大半は再び香港に戻って、働くようになった」と説明する。
ヒルバート教授によると、その人たちも今では65歳から70歳と引退の年齢に達しており、静かな環境が必要になっている。
「もともと香港人は、反中国だとか中国共産党が嫌いということだけでなく、政治的な影響が自分の日常生活に入り込んでくることを嫌う傾向が強い。ここ数年の民衆の反中的な運動の盛り上がりとともに、香港から離れようとする気持ちが強くなっていったと考えられる」と分析している。
また、香港の移民問題を研究している同大研究員のケネディ・ウォン氏も「香港の政治問題は、幽霊のように市民にまとわりついてくる。民主化や政治的自由を要求する雨傘運動や、今回の『逃亡犯引き渡し条例』改正案への反対運動には最高で200万人の市民がデモに参加するなど広範な香港住民を政治運動に巻き込んだ。多くの香港住民は、生活に余裕がある階層ほど、香港は住みにくくなったと考えているのではないか」と指摘している。