一昔前は洗濯用洗剤のCMといえば、女性タレントが主婦役として登場し、洗剤の使い勝手や特長をアピールするものが多かったが、今やその“主役”は男性タレントに変わっている。その背景についてコラムニストのペリー荻野さんが解説する。
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令和元年前半のコマーシャルで、一番の話題作といえば、花王『アタックZERO』だろう。なにしろ、松坂桃李、菅田将暉、賀来賢人、間宮祥太朗、杉野遥亮、人気の若手俳優が五人も揃って、「#洗濯愛してる会」を結成。注目されないワケがない。
しかも、よく見るとこのCMには、隠れた仕掛けがいろいろあることがわかる。まず、第一に商品の説明。「再現してみた」篇では、実験室のようなところで、ふたつのビーカーに入れた繊維の汚れ落ちを比較。プチ洗濯機のようにくるくる回る水流を見ながら、五人は「プロ感すげ~」「繊維が喜んでいる!」などとその効果をチェック。理科室で騒いでる学生のようなノリだ。
第二に彼らの会話の仕方。セリフっぽくなく、自然に話している感じ。「ワンハンドプッシュ、初めて」篇では、フタも開けずに洗剤をプッシュするだけで洗濯にかかれる体験をする松坂が、仲間に撮影を頼む。アタックのボトルを「この子」と呼ぶのもびっくりだったが、みんなで「すごくかわいい」「かわいい~!!」と言い出したのには、もっとびっくりだ。
そして第三に彼らの服装。上は素材もデザインも違うが、「白」のシャツやセーター、下はなんとなくゆるい感じのパンツ。キメキメではないが、普段着のだらしなさはない。
この三点から見えるのは、男性からも女性からも嫌われない細かい配慮である。「実験」「撮影」などの動きで日々の洗濯に対する所帯じみた感じをできるだけ排除しつつ、商品の機能を「発見」する面白さを伝える。はしゃぎ方も服装も、視聴者を突き放さず、かといって押しつけがましくもない、絶妙な距離感。「いいおとなが、かわいいって」と突っ込みどころもちゃんと用意されている。男性視聴者は、彼らのノリに軽く乗っかることで洗濯が気楽になるし、洗濯のベテランたちは「おうおう、やっておるのお。新商品、いっちょ、試してやるか」くらいの気持ちで見られるというわけだ。
思えば、近年、LIONの『トップスーパーNANOX』の二宮和也、P&Gジャパン『アリエール』の生田斗真と、洗濯洗剤コマーシャルには男性タレントの起用が目立つ。
この背景には、もちろん核家族化や共働き世帯の急増があるが、それ以上に「洗濯する男性を応援する企業である」ことをしっかりアピールしたい企業側の意図が感じられる。そのアピールは、応援される男性だけでなく、女性消費者にも歓迎され、結果、企業や商品の好感度はアップする。実際、『アタックZERO』CMは、女性層からの支持が圧倒的という。