臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々を心理的に分析する。今回は、NBA入りが決まった八村塁選手について。
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「皆さん、やりました!」と、ハスキーな声で喜びを語ったのは、21日、NBA(米プロバスケットボール協会)のドラフト会議で日本人初の1巡目指名を受けた八村塁選手だ。はにかむような笑顔でインタビューを受けていた彼のジャケットの襟には、日の丸のピンバッジ。名前を呼ばれた瞬間、満面の笑顔で天を指差した八村選手は、その仕草も立ち居振る舞いも堂々としていて実にカッコいい。
ベナン人を父に、日本人を母に持つ八村選手は、バスケで有名なアメリカのゴンザガ大学で活躍している選手である。その八村選手を1巡目で指名したのはワシントン・ウィーザーズで、ドラフト会議全体でも9位での指名だ。日本バスケ界にとっては歴史的なこの出来事にメディアは大騒ぎだ。
NBAを見たことがない私としては、これがどれだけすごいことなのかよくわからないのが残念だ。スポーツ全体でいえばバスケの競技人口が一番多いというのだが、日本では野球、サッカー、相撲と比べるとプロスポーツとしてまだ少しなじみが薄い。NBAと聞いてパッと思い浮かぶのはマイケル・ジョーダンぐらいで、ドラフトといえば、プロ野球のドラフト会議ぐらいしかイメージがわかなかったのがホンネだ。だがアメリカでは、NBA選手になるのは、宇宙飛行士になるより難しいらしい。
そんな中で小柄ながら日本人初のNBAプレーヤーとして活躍してきた田臥勇太選手が、八村選手の1巡目指名を“奇跡”と表したという記事が出ていたぐらいなのだから、バスケを知らない者にとっては想像できないくらいものすごいことなのだろう。年棒もいきなり4億円を超え、待遇もケタ違い。加えてやはり日本人初で、ジョーダンブランドとも契約したのだから、やっぱりすごい。
その八村選手を支えてきたのが、中学時代の恩師でバスケ部のコーチ・坂本穣治さんの「お前はNBAに行く」という言葉だったという。それだけの素質と才能があったのはもちろん言うまでもないが、コーチからの期待は、彼が成長し活躍していく上で大きな力になっていたはずだ。
人は期待されると、それに応えようと成果を出す傾向があるといわれる。これを心理学では「ピグマリオン効果」、または「ローゼンタール効果」という。ピグマリオンとは、ギリシャ神話に出てくるキプロス王の名前だ。王は象牙で造った像に恋して思い続けたところ、女神アフロディテがその像に命を与えて、結婚できたという逸話から、ピグマリオン効果と名付けられた。
期待されれば、一生懸命それに応えようとするのが人間だ。良い期待は良い方向に人を成長させる。だが期待するだけでは、この効果は生まれない。「それを信じてやってきました」と語った八村塁選手の言葉からわかるように、コーチも周りもそうなると強く信じて育てていくこと、そして自分自身が自分の可能性を信じることが大切になる。
ドラフト直後というタイミングで電話をかけ、「全てはコーチから始まりました」と伝えたという八村選手と、それを聞いて「感無量」と涙ぐんだ坂本コーチ。選手とコーチという二人の信頼関係を土台にしたピグマリオン効果こそが、八村塁をNBA選手へと昇華させたのだ。